日本消化器内視鏡学会甲信越支部

63.大腸内視鏡検査で診断しえた回腸癌の1例

長野県立木曽病院 外科
一本木 邦治、小山 佳紀、大町 俊哉、久米田 茂喜
同内科
木村 岳史、高橋 俊晴、小松 健一、飯嶌 章博
信州大学医学部病理
下条 久志

 <症例>80歳女性、主訴は腹痛・嘔吐、既往歴として白内障(71歳)、感染性腸炎(74歳)、家族歴に特記事項なし。<現病歴>2007年7,8,9月、2008年2月に腹痛、嘔吐を主訴にした腸閉塞で当科入院、いずれも保存的治療にて軽快した。2007年9月の大腸内視鏡検査時に終末回腸造影を併せて行ったところ、バウヒン弁より15〜20cmの部位に狭窄が疑われるたが確定診断には至らなかった。2008年5月22日に腸閉塞再発にて当科入院となった。<入院時現症>身長137cm、体重30.9kg、血圧137/70mmHg、脈拍70回/分、体温36.5℃、腹部:やや膨隆、圧痛(+)。<入院時検査所見>CEA:6.9mg/dl、Hb:8.6g/dl。腹部レントゲン写真では小腸内ガス像が認められた。腹部CTでは小腸がびまん性に拡張した所見が認められたが腫瘍性病変の存在は明らかではなかった。<入院後経過>経鼻胃管を留置し保存的治療にて腸閉塞症状は軽快、5/24、流動食開始、5/28、大腸内視鏡検査を施行したところ、バウヒン弁より10cmの回腸にlymphomaあるいは癌を疑う全周性隆起性病変を認めたものの、生検を行うことが困難であった。洗浄液の細胞診にてclass5、中分化型腺癌、小腸癌の診断。6/2、回盲部切除術施行。術中に肝転移、腹膜播腫の所見は認められなかった。病理組織学的検査では回腸に硬い45×35mmの2型腫瘍を認めた。術後経過は良好で6/18退院となった。<考察>小腸癌は消化管悪性腫瘍の中では比較的発生頻度が少なく、早期に診断する方法も確立されていないことから、診断も遅れがちとなる。治療はリンパ節廓清を含む小腸切除が第一選択となっている。本症例では病変部位が回盲部に近接していたために大腸内視鏡検査にて病変の確認ができたが、小腸癌は全小腸に発生する可能性があるものであり、開腹手術歴のない患者の繰り返すイレウスを認めたら、小腸癌も考慮すべきであり、積極的な検索が必要である。