要旨 63歳の男性。主訴は黒色便、息切れ。2008年3月初旬より黒色便を認めていたが放置していた。息切れも自覚するようになり、3月19日に近医を受診し、上部消化管内視鏡検査を施行するも出血源は不明であり当科紹介となった。下部消化管の検索では出血源なく、黒色便が回腸末端に認められた。小腸を含めた口側からの出血と考え、引き続き通常のスコープを用いた上部消化管内視鏡検査を施行した。胃および十二指腸球部では、毛細血管の拡張はあるものの活動性の出血は認めなかったが、十二指腸下降部で直線化する際に水平脚に潰瘍性病変を認めた。スコープが届かないため細径可変式の下部消化管内視鏡用スコープ(PCF-260A1)に替え、透視下で検査を施行したところ、トライツ靭帯近辺にも同様の病変を認めた。生検で癌細胞を認め、入院後の精査の結果、肺大細胞癌の多発小腸転移による出血と診断した。化学療法(paclitaxel 120 mg、carboplatin 150mg)、輸血を併用しながら治療したが、初診から約5か月後に永眠された。 十二指腸からの出血を契機に診断された肺癌は比較的稀であると考え報告した。