日本消化器内視鏡学会甲信越支部

60.ショック状態を呈したメッケル憩室出血の1例

山梨県立中央病院 消化器内科
辰巳 明久、鈴木 洋司、小嶋 裕一郎、小林 美有貴、吉田 貴史、細田 健司、廣瀬 雄一、望月 仁
山梨県立中央病院 救急救命科
岩瀬 史明、松園 幸雄
山梨県立中央病院 外科
赤澤 祥弘、三井 照夫
山梨県立中央病院 病理
望月 邦夫、小山 敏雄

  症例は19歳女性、主訴は血便。現病歴は、2008年3月中旬より悪心、下痢があり、近医にて感染性腸炎として加療されていた。3月20日から腹痛、血便が出現したため、某院入院。保存的治療にて血便は一時減少したが、23日に大量の血便あり、Hb3.5まで低下、ショック状態となったため、24日に当院救命救急科に搬送された。搬送時、血圧80/40、脈拍150であり、大量の血便が持続していた。急速輸血を継続し血圧を維持した。造影CT検査では腸管内に血液を認め、回腸に造影剤の貯留する部位を認めた。また大腸鏡検査では、バウヒン弁から大量の新鮮血の流出を認め小腸出血が疑われたが、終末回腸を観察するも出血源は同定できなかった。緊急血管造影検査を行い、上腸管膜動脈造影で回結腸動脈の末梢枝で小腸内に出血する血管を確認できた。同血管にスポンゼルにて塞栓を試みるも十分な止血効果は得られなかったため、コイルにて止血を行った。その後、外科にて小腸切除術が実施された。開腹所見では、中等量の腹水を認め、小腸の拡張を認めた。小腸の壊死所見は認められなかった。バウヒン弁より近位側40cmの回腸に小腸間膜の対側に突出する憩室を認め、メッケル憩室と考えられた。憩室の壁内にコイルを認めたため出血源と考え、破綻した血管を含む小腸を切除した。術後経過は良好で第9病日に退院した。病理学的所見では、5.5cmの固有筋層を有する真性憩室を認めた。胃粘膜を認めなかった。その近傍の小腸壁内に破綻した動脈を認め、内部にスポンゼルを認めた。出血部位の憩室側の小腸粘膜には修復期の潰瘍を認めた。以上よりメッケル憩室の動脈破綻による大量出血、大量血便と診断した。大量の血便にて発症したメッケル憩室の1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。