日本消化器内視鏡学会甲信越支部

57.心源性脳塞栓症発症1年後に狭窄型虚血性小腸炎にて腸管切除を行った若年男性の1例

新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
青柳 豊
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野、新潟県立新発田病院 内科
野澤 優次郎、五十嵐 聡
新潟県立新発田病院 内科
本間 照、松澤 純、杉山 幹也、夏井 正明、姉崎 一弥、渡辺 雅史
新潟大学 分子・診断病理学分野
味岡 洋一、岩永 明人

 症例は44歳男性。43歳時に心源性脳塞栓症で入院し右不全麻痺を残した。心エコーで心尖部の壁運動低下と壁在血栓を認めた。若年発症のため、膠原病や抗リン脂質抗体症候群など凝固機能障害の疾患を検索したが、否定的であった。抗凝固療法を開始されたが、半年後に通院および服薬を自己中断していた。平成20年1月心窩部痛、下痢、嘔吐を主訴として救急外来を受診した。CTで回盲部の壁肥厚を認め、CRPは8.0mg/dlと上昇し、感染性腸炎の診断で入院した。絶食の上で抗生剤の投与と抗凝固療法の再開を行った。入院後、腹痛は下腹部へ移動し、37〜38度の発熱と7〜8行/日の下痢が持続した。CFで盲腸に輪状潰瘍を、終末回腸に広範な地図状潰瘍を認めた。残存小腸粘膜は絨毛が腫大し発赤浮腫状であった。回盲弁から口側約15cmに高度狭窄を認めたため、深部挿入はできなかった。小腸造影で回盲弁の口側40cmまで狭窄を認めた。血管炎症候群などの血清学的検索を行ったが、有意な所見はなく、3D-CTでSMA分枝に明らかな狭窄や途絶を認めなかった。TPN管理、5ASAの投与を行ったが、症状は軽快と増悪を繰り返した。経口摂取を再開すると腹痛が増悪し、炎症反応も再燃するためPSL20mgを開始した。その後、成分栄養を開始し、経口摂取が可能となった。下腹部痛は残存するものの、CFで狭窄部の肛門側潰瘍は治癒期であることを確認し、第91病日に退院した。しかし、退院後も経口摂取により腹痛が増強し、入院時から11kgの体重減少を認めたことから、外科切除を強く希望した。第149病日に手術となった。盲腸〜回腸へ約50cmに渡り周囲との炎症性癒着があり、口側回腸は拡張していた。回盲部切除が施行された。切除標本では終末回腸に広範囲な帯状潰瘍を認め、管腔は狭窄していた。病変辺縁部では腸間膜反対側に縦走傾向のある潰瘍を認めた。狭窄の口側回腸には炎症を伴う憩室を認め瘻孔形成も見られた。類上皮細胞性肉芽腫などクローン病を示唆する所見は見られなかった。虚血性回腸炎、回腸憩室症、憩室炎と診断した一例を経験したので報告する。