日本消化器内視鏡学会甲信越支部

56.門脈ガス血症を伴った腸管気腫症の一例

仁愛病院 消化器外科
飯沼 伸佳、鈴木 彰、秋田 真吾、北原 弘恵、黒田 孝井
仁愛病院 消化器外科、信州大学 消化器外科
小出 直彦

 「緒言」門脈ガス血症を伴った腸管気腫症の一例を報告する。「症例」患者は89歳の女性で、3日前よりの腹痛と頻回の水様性下痢を認め、腹部膨満を主訴に来院した。受診当日に腹部膨満が進行し、腹痛は身の置き所がないと表現されるほど増悪していた。既往歴は高血圧、糖尿病、狭心症にて当院への通院歴があった。来院時、意識清明、血圧84/55mmHg、脈拍88回/分整、体温35.6℃であった。腹部は圧痛を認めたが、筋性防御は認められなかった。腹部膨満は著明であった。血液生化学検査ではWBC 11,400 /ul、CRP 7.0 mg/dlと炎症所見を認めた。腹部X線検査で拡張した小腸ガス像を認めた。腹部CT検査では、肝両葉にわたる門脈ガス像と小腸の腸管気腫を認めた。腹腔内遊離ガス像は認められなかった。腹部主要血管の血栓は認められず、明らかな腸管の閉塞機転も認められなかった。急速に進行する症状と身体所見及び画像所見より、末梢性の腸管虚血の存在を疑い、緊急手術を施行した。手術所見では拡張した小腸を認め、空腸から回腸の広範囲に散在する腸管気腫及びその静脈内に細かい気泡を認めた。腹腔内及び後腹膜膿瘍は認めず、小腸、大腸を全長に渡り検索したが、腸管壊死や器質的な閉塞は認められなかった。腸管内容の減圧を治療方針とした。腹腔内洗浄後、用手的にイレウス管を留置し、腸管内を減圧した。術後、通過障害の症状はなく、第7病日に水分摂取を開始し順調に経過した。「考察」腸管気腫症には腸閉塞などの腸管内圧の上昇や、腸管虚血などの腸管粘膜の脆弱化などが原因として挙げられている。本症例では、急性腸炎を契機とした麻痺性イレウスにより腸管内圧が亢進し、門脈ガス血症を伴った腸管気腫症を発症したと推察された。