日本消化器内視鏡学会甲信越支部

54.定位放射線治療を行った肝細胞癌の4例

山梨大学 医学部 第一内科
津久井 雄也、北村 敬利、雨宮 史武、井上 泰輔、坂本 穣、前川 伸哉、岡田 俊一、榎本 信幸
山梨大学 医学部 放射線科
大西 洋、荒木 力

 【はじめに】重篤な併存疾患のために標準治療が困難な肝細胞癌(以下HCC)に対して、定位放射線治療(以下SRT)を行い、良好な治療効果を得た4症例を経験したので報告する。【症例1】73歳女性。非B非C肝硬変。HCCのため54歳時に肝左葉切除。71歳時にHCC再発を認め、TACE+PEIを受けた。その後、AFP上昇、CTで肝S8辺縁に22mmのHCC再発を認めた。Child-Pugh Aと肝予備能は良好であったが、大動脈弁狭窄症(AS)(NYHA classIII)を認め、SRTを行った。その後、ASについてはHCC根治との判断で大動脈弁置換が行われ、治療後21ヶ月無再発生存中である。【症例2】78歳男性。アルコール性肝障害。喉頭癌のため耳鼻科に入院中、肝S8辺縁に径27mmの肝腫瘍を認め生検で高分化型HCCと診断した。Child-Pugh Aと肝予備能は良好であったが、合併症に胸部動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全、大動脈内壁在血栓、心房細動、高血圧、慢性腎不全があり、喉頭癌に対して根治的治療である切除を希望されず化学放射線療法を希望されたことから、HCCに対してもSRTを行った。HCCの再発は認めなかったが、繰り返す誤嚥性肺炎と心不全のため治療後13ヶ月で永眠された。【症例3】80歳男性。C型肝硬変。経過観察中、肝S6に径17mmのHCCを認めた。Child-Pugh Aと肝予備能は良好であったが、活動期の間質性肺炎を認め、陽圧呼吸、抗癌剤治療は禁忌とされたためSRTを施行。治療後5ヶ月無再発生存中である。【症例4】73歳女性。非B非C肝硬変。AS(NYHA classIII)術前精査のため循環器内科入院中、肝S2に径31mmのHCCを認め、生検でも高分化型HCCを認めた。Child-Pugh Aと肝予備能は良好であったが、心不全を伴うASであり、SRTを施行。その後、ASについては大動脈弁置換が行われ、治療後3ヶ月無再発生存中である。【結語】HCCに対する定位放射線治療は肝癌診療ガイドラインの治療アルゴリズムにもふれられていない治療法であるが、高い局所制御能を持つとの報告も多く、重篤な併存疾患を持つ症例や腫瘍の局在部位によっては、低侵襲で高い治療効果を期待できる治療法と考えられる。