日本消化器内視鏡学会甲信越支部

53.集学的治療が奏効し無再発生存中の右房内腫瘍進展を伴った高度進行肝細胞癌の1例

新潟大学医歯学総合病院 消化器内科
田村 康、渡辺 和彦、高村 麻子、橋本 哲、山際 訓、須田 剛、大越 章吾、青柳 豊
新潟県立中央病院 内科
兼藤 努、津端 俊介
新津医療センター病院 内科
鈴木 康史
新潟大学医歯学総合病院 第一外科
黒崎 功

 【症例】66歳男性.

【主訴】肝細胞癌治療目的.

【既往歴】特記事項なし.

【現病歴】1997年よりアルコール性肝硬変で近医に通院.2000年6月に多発肝細胞癌と診断され,同院で経皮的エタノール注入療法(PEIT),肝動注化学塞栓療法(TACE)が施行された.2002年4月に右房内腫瘍進展を伴う肝細胞癌再発に対して5-Fluorouracil(5-FU)とCisplatin(CDDP)による肝動注療法が施行された.2004年4月に治療制御困難な尾状葉再発を含む多発肝細胞癌の治療継続目的に当科紹介受診し入院した.

【経過】入院後リザーバーを留置し,インターフェロン(IFN)併用5-FU動注化学療法を開始し,8月に尾状葉部分切除術を施行した.その後も残存病変に対しIFN併用5-FU動注療法を継続したところ,2005年2月には肝内転移巣は消失し経過観察なった.しかし,同年8月に再度,肝右葉に肝細胞癌再発を認めたためIFN併用5-FU動注療法を再開し継続した.2006年の2月のCTで腫瘍の増大傾向を認めたため同療法を中止し,TACEおよびPEIT,経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)を施行した.その後も再発肝細胞癌に対しPEIT,RFAを繰り返し施行したところ2008年1月のCT以降,肝細胞癌再発を認めず現在無再発生存中である.

【考察】下大静脈あるいは右心房までの腫瘍栓進展を伴う肝細胞癌は,手術により腫瘍栓と原発巣を切除できた場合は長期予後も期待できるが,一般には多発肺転移や肺梗塞の合併などにより予後不良である.本症例は右房内腫瘍進展を伴う高度進行肝癌であったが,TACEやPEIT等の内科的治療を中心とした集学的治療により長期生存中(現在は無再発生存中)であり,貴重な症例と考え報告する.