日本消化器内視鏡学会甲信越支部

52.動注用シスプラチン製剤の反復投与により長期生存中のC型肝硬変合併肝細胞癌の1例

長岡赤十字病院 消化器内科
三浦 智史、中村 潤一郎、山田 聡志、三浦 努、柳 雅彦、高橋 達
坪井内科医院
坪井 康紀
長岡赤十字病院 放射線科
高野 徹

 症例は58歳男性。1998年にC型慢性肝炎(1型高ウイルス)を指摘され、IFNβ治療を受けたが無効であった。2004年4月に肝S4ドーム下に径2.7cm、肝S3辺縁に径1.0cmの2個の肝細胞癌を指摘され入院。肝予備能はICG k値 0.07、ICG15分停滞率 40%、肝障害度Bであった。腫瘍は両葉に存在し肝予備能からは手術が困難であり、穿刺治療も困難な部位であったため、血管治療を選択し、同年5月に肝動注塞栓療法(TACE)を施行した。2005年2月、6月に再発しTACEを施行した。同年12月のCTでは肝内転移が多発していた。そこで2006年1月にGDAコイル法にてリザーバーを留置し、動注用シスプラチン製剤(以下CDDPと略)の動注療法を開始した。有害事象はGrade2の嘔気、全身倦怠感を認めるのみであり、月1回のリザーバー動注を継続した。同年12月に新病変を認め、2007年1月に5-FU+IFN療法を試みたが血球減少が著明となり中止した。CDDPのリザーバー動注を再開した後、計22回施行し、2008 年1月にリザーバー損傷のためリザーバーを抜去した。その際に肝内転移の増大を認めたので、CDDP+DSMのセルジンガー法による肝動注へと変更した。以後計4回投与を行ないSDの効果判定を得て、現在も継続している。経過中AFPやPIVKA-IIの上昇は認めていない。肝細胞癌に対する治療は初回治療で完全治癒を目指すことが最も重要であるが、手術やRFAなどの治療が困難で、血管治療を選択せざるを得ない場合、再発しやすいことが問題である。動注用シスプラチン製剤(アイエーコール)は単独で用いても高い奏功率を示す薬剤であり、著効例の報告も散見される。本例においても動注したCDDPの総投与量は2,200mgを超えているが、重篤な有害事象を認めず安全に使用でき、なおかつ長期間にわたって腫瘍を制御できた。しかし、動注用シスプラチン製剤の投与による重篤な有害事象の報告もあり、今後の更なる症例の集積が望まれる。