日本消化器内視鏡学会甲信越支部

51.肝細胞癌破裂に対してアイエーコールによる肝動脈塞栓術が奏効した1例

佐久総合病院 肝胆膵内科
古川 ちひろ、高松 正人、古武 昌幸、比佐 岳史、植田 瑞穂

 【背景】肝細胞癌の破裂は一般的に予後不良であり、治療困難なことが多い。今回、肝細胞癌破裂を画像的に明確に診断でき、経皮的肝動脈塞栓術(TAE)を繰り返すことにより、比較的効果をあげた症例を経験したので報告する。【症例】73歳女性。非B非C型肝硬変を指摘されていた。突然の右季肋部痛を主訴に近医を受診し、腹部エコーで肝右葉に広がる腫瘤性病変、腹水を認めた。試験穿刺で血性腹水であったことから肝細胞癌の破裂が疑われ、当院救急搬送となった。血液検査で、AFP 120ng/ml。腹部単純CTで比較的高吸収で濃度の不均一な腹水が見られた。造影CTでは一部肝外に突出する多発腫瘍と造影剤の血管外漏出が認められ、肝細胞癌破裂と確定診断した。バイタルサインは落ち着いていたが、貧血が見られた。輸血を行った後、待期的にアイエーコール、リピオドール、ゼラチンスポンジによるTAEを施行した。腫瘍の縮小、腹水の消失を認めた。その後、残存、再燃に対しTAEを3回追加した。現在、画像上では播種は認められず、初診時より1年1か月の経過で、外来通院中である。【考察】肝細胞癌破裂は、初診時の循環動態、出血の程度、肝障害度、肝細胞癌の進行の程度などにもよるが、予後不良である。止血と治療を兼ねてTAEが第一選択とされるが30日以内の死亡率が32%との報告がある。アイエーコールは従来のCDDPより高濃度の溶液を調整できる微粉末化CDDP製剤で、単独動注で33.8%とより高い奏効率が報告されており、進行した肝細胞癌でも効果を示した例が報告されている。本症例では塞栓術の効果に加え、アイエーコールが奏効したのではないかと考えられる。