日本消化器内視鏡学会甲信越支部

50.混合型肝癌を発症した非B非C型肝疾患の一例

独立行政法人 労働者健康福祉機構 新潟労災病院 消化器内科
太幡 敬洋、麻植ホルム 正之、前川 智、森 健次、合志 聡
新潟大学医歯学総合病院 第三内科
野本 実

 症例:70歳台後半,女性。主訴:特記なし。

既往歴、家族歴に特記なし。アルコール多飲歴なし。

現病歴と経過:60歳代後半から糖尿病で通院治療を受けていた。2007年5月下旬、感冒様症状で近医を受診した際に、腹部USで、肝S7にφ3.7cmの腫瘤を指摘され、当院へ紹介となった。肝腫瘍は、造影CTでは、周囲肝より低濃度で造影効果も弱く、SPIO-造影MRIでは、T1WIで低信号であり、SPIOの取り込みが減少していた。非腫瘍部は、USで高エコー、単純CTは低吸収で脂肪肝の所見を呈していた。血液検査では、HBsAg(-), anti-IgM-HBc(-), anti HCV(-), ANA(-), AMA(-), ALP, IgMの上昇を認めなかった。腫瘍マーカーは、AFP 129 ng/ml, CEA 8.5 ng/mlであった。非アルコール性脂肪性肝炎に発症したHCCと診断し、2007年7月に、肝後区域切除術が施行された。

 肝腫瘍組織は、hepatocellular carcinomaとcholangiocarcinomaの成分を認め、混合型肝癌と診断した。免疫染色では、CK7、AE1/3,CAM 5.2が強陽性で、AFPも陽性であった。背景肝の組織は、perivenular fatty changeや軽度のfibrosis, ballooning, 炎症細胞浸潤を認めた。また、一部でGlisson鞘内の胆管近傍に肉芽腫を認めた。術前検査では、非アルコール性脂肪性肝炎が最も考えられたが、肝組織所見は、非アルコール性脂肪性肝炎様にも原発性胆汁性肝硬変様にも考えられた。

 術後経過は良好であったが、2008年4月に右下肢の不全片麻痺と腰痛を認め、腰椎への骨転移が判明した。同部への放射線治療を行ない、症状は緩和されたが、肝性脳症を認めるようになり、数回の入院を繰り返した。肝不全が進行し、2008年9月に永眠された。

まとめ:非B非C型肝硬変に発症した混合型肝癌の既報は少なく、興味深い症例と考えられたため、ここに報告した。