日本消化器内視鏡学会甲信越支部

43.腸間膜静脈−下大静脈シャントに対してBRTOを施行した難治性肝性脳症合併C型肝硬変の1例

新潟市民病院
堅田 朋大、和栗 暢生、横尾 健、河久 順志、濱 勇、米山 靖、相場 恒男、古川 浩一、杉村 一仁、五十嵐 健太郎、月岡 恵

 症例は50代の男性。19歳時に交通事故で多発骨折し輸血を受けた。C型慢性肝炎として数年近医に通院したが自己中断。2007年12月、右片麻痺にて発症した左視床出血にて当院脳外科に入院し保存的加療で麻痺はほぼ改善。肝機能障害を認められ当科紹介受診。C型肝硬変の診断で通院加療を開始した。2008年4月頃からふらつきや傾眠傾向という症状で肝性脳症顕性化。ラクツロース内服、分岐鎖アミノ酸製剤などの内科的治療を行ったが、傾眠や歩行時のふらつきが増悪し、入院加療。しかし改善はわずかであり内科的治療の限界と思われた。CTにて上腸間膜静脈から左下腹部後腹膜を経由し腎下極レベルで大動脈の背側をくぐり下大静脈へ注ぐ太い門脈大循環シャント(PSS)を認めた。Child-Pugh score 10-C (脳症:2点、腹水なし:1点、T-Bil 3.0:2点、alb 2.2:2点、PT 40%:2点)と肝予備能も低いが、十分なICのもと、ADL改善目的にIDCおよび5% EOIによるバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)を施行した。また急激な門脈圧上昇を懸念して部分脾動脈塞栓術を追加した。術後は血中アンモニアも正常化し、脳症は改善した。術後2ヶ月で滑舌も良く、ふらつきや傾眠もなく仕事復帰可能となった。今回胃腎シャント以外の門脈大循環シャントに対するBRTOを行い、術前のMDCTによる前額断MPR画像がシャント形態把握に非常に有用で治療に好影響を与えた。また特筆すべきは中等度にみられた両下肢の浮腫が利尿剤などを使用せずにBRTO直後から消失したことである。肝で干渉されずに内臓血流が多量に下大静脈に注ぎ込む状況が下肢の静脈還流を悪くし浮腫が出ていたものと思われ、BRTOによるシャント閉鎖が脳症のみならず下肢浮腫改善に極めて有効であった。