日本消化器内視鏡学会甲信越支部

39.胆管・胆嚢炎による出血と横行結腸瘻によりタール便を認めた一例

立川綜合病院 消化器内科
八木 亮磨、杉谷 想一、山岸 哲郎、星 隆洋、藤原 真一、小林 由夏、飯利 孝雄
同 外科
蛭川 浩史、多田 哲也
同 病理部
岡崎 悦夫
新潟大学 第二病理
山本 尚

 【症例】79歳、女性、主訴;タール便、既往;心筋梗塞のためワーファリンとバイアスピリン内服中〔病歴〕H.20年7月より食欲不振と腹痛・背部痛を主訴に近医を受診した。総胆管結石と胆石による胆管胆嚢炎と診断され、8月9日に入院し禁食と補液により治療されていたところ、タール便と貧血が出現したため、8月14日、当科に紹介転院した。入院時の身体所見では軽度の貧血・黄疸を認めたが、腹部に自発痛・圧痛はなかった。血液検査では、Hb 9.0g/dl、TB 4.7 mg/dl, ALP 1492 IU/l, g-GTP 263 IU/l,CRP 10.75 mg/dlとPT-INR>5.1 の異常値を示した。入院後の画像検査は、総胆管結石はなく排石後と考えた。胆嚢内に胆石と胆嚢内出血がみられ、胆嚢壁は著明に肥厚し、庭部は横行結腸と癒着し一塊となっていた。ワーファリン休薬後、タール便はなく、炎症と黄疸も速やかに改善したため、保存的に加療した。炎症の波及により胆嚢・横行結腸瘻を形成し、胆嚢出血が結腸へ排出したと考えた。下部消化管内視鏡(CF)にて横行結腸に瘻孔と胆汁流出を確認し、CF後のCTで胆嚢・胆管内へのAirの流入も確認出来た。胆嚢摘出術を施行した。肉眼的に胆嚢・横行結腸瘻と胆嚢内出血を確認し、組織学的に、胆嚢は線維性、肉芽腫性に肥厚し、筋層は消失していた。粘膜はほとんどが脱落し、広汎な出血と浮腫を認めた。【考察】本例は慢性胆嚢炎により脆弱となっていた胆嚢壁に急性炎症が加わり、癒着していた横行結腸に穿通したと考えた。胆嚢出血からタール便をきたした報告はまれであるが、本例は抗血栓療法により胆嚢出血が遷延したためにタール便をきたしたものと考えている。