日本消化器内視鏡学会甲信越支部

38.妊娠末期に胆道穿孔で発症した先天性胆道拡張症の1例

長野赤十字病院
松嶋 聡、徳竹 康二郎、今井 隆二郎、三枝 久能、原 悦雄、森 宏光、松田 至晃、和田 秀一、清澤 研道
日本赤十字医療センター
佐野 圭二、幕内 雅敏

 症例は26歳女性で、妊娠39週に心窩部痛、背部痛が出現した。翌日に某産婦人科医院に入院となり帝王切開にて無事出産したが、術中所見で緑色の腹水が認められ右後腹膜腔が緑色に透見された。術後も腹痛が持続し出産翌日に当院産婦人科に搬送された。腹部CT及び超音波検査にて腹水と右腎周囲の後腹膜腔への液体貯留及び嚢腫状に拡張した胆管を認めたため、先天性胆道拡張症が疑われ消化器内科に入院となった。入院時には軽度の黄疸と心窩部の軽度圧痛があり、血液検査上WBC 13000/μl、CRP12.98mg/dlと炎症反応を認め、アミラーゼ220IU/l、総ビリルビン1.8mg/dlと軽度上昇していた。以上の所見から先天性胆道拡張症を背景とした膵炎あるいは胆道拡張症の破裂の可能性を考え、膵炎に準じた保存的治療を施行したが、その後も間歇的な腹部の疼痛が持続し、肝胆道系酵素の上昇と、超音波検査の再検で拡張した総胆管内にsludgeが認められたために第5病日にERCPを施行。新古味分類Ia型の合流異常、戸谷IVa型の先天性胆道拡張症の所見であった。ENBDを施行したところ、以後自他覚所見と検査所見は共に改善した。第14病日にENBDを抜去した後の腹部造影CTでは腹水・後腹膜の液体貯留はほぼ消失していた。また、EUSにて嚢腫の背側の胆管壁に約13mmの範囲で低エコー層の肥厚所見が認められ、穿孔部を示していると考えられた。その後の経過は順調で第16病日に当院を退院し、約4ヵ月後に日本赤十字医療センターにて肝外胆管切除+胆管空腸吻合術を施行された。術後経過も順調である。医学中央雑誌による検索では、妊娠・分娩期に発症する先天性胆道拡張症は本邦で100余例の報告があり、妊娠後期以後の発症が多い。また胆道拡張症の穿孔例の報告はほとんどが小児例であり、成人例は妊娠の有無に関わらず本邦で3例のみであった。本例は一時的なENBDがきわめて有効であり、待機的に手術が出来たという意味でも貴重な症例と考えられたため報告する。