日本消化器内視鏡学会甲信越支部

35.粘液産生胆管腫瘍の一例

新潟県立新発田病院
早川 雅人、夏井 正明、田中 由佳里、松澤 純、杉山 幹也、姉崎 一弥、渡辺 雅史、本間 照
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野
味岡 洋一

 今回、われわれは比較的稀な粘液産生胆管腫瘍の一例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。症例は70歳代、男性。特に症状を認めなかったが、当院泌尿器科で前立腺癌のstagingのために施行された腹部CTで肝内胆管の軽度拡張を指摘され、2008年1月18日に当科に紹介された。初診時現症および検査成績に異常を認めなかった。腹部USで肝内胆管の軽度拡張の他に肝門部に嚢胞性病変を指摘され、腹部CTを見直すと同病変を認めた。ERCPで胆管内を移動し変形する透亮像を指摘されたが、IDUSでは同所見に対応する構造物を認めなかった。胆汁細胞診はclass IIであったが、多量の粘液を認めた。肝門部嚢胞性病変はMRCPでより明瞭であり、再検USでそれは右肝管に連続性するように見えた。以上より粘液産生胆管腫瘍と診断し、その存在部位は肝門部嚢胞内と考えた。3月31日に入院し、4月3日にPTCDを施行した。後日に行った直接胆道造影で嚢胞と右肝管の連続性が証明された。腫瘍性病変の存在と表層拡大病変の有無の確認のために18日にPTCSを施行した。嚢胞は前後区域胆管分岐部のやや十二指腸側に付着していたが、付着部の形態は正常胆管の分岐部と同様であり、嚢胞は従来の胆管(おそらく前区域への一部に分布)が嚢状に拡張したものと推定した。嚢状に拡張した胆管内には粘液の付着や陥凹を認めたが、明らかな上皮性病変を指摘し得ず、嚢状拡張胆管内および分岐部からの生検でも腫瘍性変化を認めなかった。また、胆管の他の部位に異常を認めなかった。腫瘍性病変を確認できなかったが、それが嚢胞拡張胆管内に存在する可能性が高いと判断し、5月7日に胆管嚢腫切除術を施行した。病理学的に粘液を豊富に含む異型上皮の乳頭状増殖を認め、胆管嚢胞腺腫と診断された。粘液産生胆管腫瘍は粘液産生膵腫瘍(IPMNとMCN)との共通点が多く、前者を後者のカウンターパートとして扱っていこうとする趨勢にある。しかし、両者間に幾つかの相違点も次第に明らかになり、また粘液産生胆管腫瘍自体の症例数が少ないため未だ不明な点が多いのが現状である。今後、更なる症例の蓄積が必要である。