日本消化器内視鏡学会甲信越支部

33.イマチニブメシル酸(グリベックR)投与後DICを発症した多発性肝転移をともなう膵頭部近傍GISTの1例

NHOまつもと医療センター 松本病院 消化器科
宮林 秀晴、松田 賢介
NHOまつもと医療センター 松本病院 内科
松林 潔、古田 清、北野 喜良
NHOまつもと医療センター 松本病院 外科
小池 祥一郎
信州大学 医学部 消化器内科
新倉 則和

 症例は58歳・女性。2007年から体重減少を自覚していた。2008年5月頻尿を訴えて信州大学泌尿器科を受診。腹部CT検査で膵頭部癌の疑いと多発性肝腫瘍疑いにて同院消化器内科で精査入院。GIE, EUS-FNA, PET, MRI等施行され膵原発の内分泌腫瘍と多発性肝転移の疑いで体力の確保と食欲不振の改善のため当院へ紹介入院。EUS-FNAの組織は国立がんセンターで病理診断され、c-kit(+)でGIST(gastro-intestinal stromal tumor)であることが判明した。同年7月12日よりグリベックR400mg/dayの投与を開始。投与初期は全身浮腫が出現し、少量の利尿剤で対処していたが、7月28日突然吐血。緊急内視鏡を行ったところ十二指腸下行脚のびらんより出血していた。内視鏡的止血を行うも出血は止まらず、血管造影下にcoilingを行い止血した。血小板減少・フィブリノーゲン減少・FDP著増などDIC scoreで10点となりDICと診断した。DICはグリベック休薬とフサン投与で改善したためグリベックRを再開。14日投与となったところで下肢の疼痛など深部細動脈の血栓傾向と思われる症状が出現し、再び休薬とフサン・ヘパリンの投与で改善。同薬で多発性肝転移巣・原発巣に縮小・改善傾向が認められたため再び投与を開始し、10日投与10日休薬の投与間隔にしたところFDP上昇が改善し、検査所見も異常なく現在外来で経過観察を行っている。本症例はグリベックR投与後tumor lysis syndromeを起こし、血液中に崩壊物質が多量に流れ込んだことがDICの一因と考えられた。C-kit(+)のGISTに対するグリベックRは確立された治療法であり、治療初期には本症例のような合併症も考慮すべきものと考えられた。