日本消化器内視鏡学会甲信越支部

32.自己免疫性肝炎由来の肝硬変にマスクされていたインスリノーマの1例

千曲中央病院 内科
宮林 千春、片倉 正文、大西 雅彦、高濱 充貴、大西 禎彦、窪田 芳樹
信州大学 放射線科
山田 哲、角谷 眞澄
東京女子医大八千代医療センター 病理診断科
中野 雅行

 肝硬変に伴う糖代謝異常は食前低血糖、食後高血糖となり、しばしば低血糖を生ずる。今回われわれは、自己免疫性肝炎による肝硬変のためと考えられていたインスリノーマの1例を経験したので報告する。症例は68歳女性。63歳時に胆嚢結石の手術(開腹)を行った際に肝硬変(非B非C)と診断された。この頃より食前および空腹時にめまい、冷汗、動悸を訴えるようになり血糖値が60mg/dl以下の低血糖が認められた。肝硬変による低血糖として糖質の補給で経過観察されていたが、低血糖症状の頻度が増加し、症状も重篤でしばしば意識障害を伴うため、肝機能異常および低血糖の精査目的に当科に紹介となった。初診時TB 1.39mg/ml、AST 59IU/L、ALT 50IU/L 、抗核抗体320倍で、胆嚢結石手術時および今回の肝生検組織診断では自己免疫性肝炎由来の肝硬変として矛盾しない所見であった。夜間意識障害を伴う低血糖時の血糖値は32mg/dlで、インスリン値は24μU/mlと抑制されておらずインスリノーマが強く疑われた。Dynamic CTでは膵鈎部背側に早期から強く濃染する多血性腫瘤を認めた。血管造影では上腸管膜動脈造影で腫瘍濃染を認め、同時に行ったASVS (arterial stimulation venous sampling)ではカルシウム負荷に対する著明なインスリン上昇がみられ腫瘤がインスリノーマであることが確認された。インスリノーマの第1治療選択は手術であるが、本例ではICG 70%であり断念した。ソマトスタチンアナログを用いたところインスリンが抑制され低血糖は消失した。現在は徐放剤を用いて治療している。肝硬変に伴う低血糖ではインスリノーマも念頭におき鑑別を行う必要がある。