日本消化器内視鏡学会甲信越支部

31.腹痛と閉塞性黄疸で発症し、総胆管と交通を来した膵嚢胞性疾患の1例

新潟県立吉田病院 内科
佐藤 聡史、、中村 厚夫、八木 一芳、関根 厚雄
新潟県立吉田病院 外科
川原 聖佳子、岡本 春彦、田宮 洋一
新潟大学医歯学総合病院 第三内科
渡辺 順
新潟大学医歯学総合病院 病理部
梅津 哉

 症例は49歳男性。既往歴は虫垂切除術、うつ病。平成20年3月初旬より、心窩部痛、食欲不振、黄疸が出現。3月12日、症状の増悪を認め、当科受診、入院となった。入院時、心窩部〜右悸肋部に約10cm大の腫瘤を触知。腹部エコー、CTでは膵頭部に12×10cm大の嚢胞性病変を認め、総胆管を圧排していた。ERCPでは主膵管と嚢胞は交通し、嚢胞内にENPD tubeを留置。膵液は黄色調であり、胆汁の混入が疑われた。3月24日、ERPD(7Fr プラスチックステント)留置。その際のERCPで嚢胞内に透亮像を認め、隆起性病変の存在が疑われた。また総胆管と嚢胞内の交通が疑われた。その後DIC-CTで、嚢胞内と総胆管の交通を確認。EUS、腹部エコー、CTで嚢胞の縮小と嚢胞壁の急激な肥厚、嚢胞内部に乳頭状隆起を認めた。嚢胞の吸引細胞診では滲出物と炎症細胞であり、嚢胞内の乳頭状隆起、嚢胞壁からの生検では、ともに繊維化を来たした組織のみであった。腫瘍成分は認められなかったが、乳頭状隆起の増大、急激な嚢胞壁の肥厚があり、画像上悪性疾患を否定しきれなかったため、4月21日、膵頭十二指腸切除術を施行した。手術標本は、膵頭部に90×95mm大、白色調、solidで弾力、肉厚のある腫瘤を形成しており、総胆管との交通を認めた。組織学的には腫瘤は広範な繊維化が見られ、高度な炎症細胞浸潤を伴っていた。また一部に膵組織が残存していた。腫瘍成分は認められず、慢性膵炎急性増悪及び炎症に伴う膵嚢胞と診断した。今回我々は総胆管との交通を認め、急激な壁肥厚と隆起性変化を伴い、悪性疾患との鑑別が困難であった膵嚢胞の一例を経験したため報告する。