日本消化器内視鏡学会甲信越支部

29.術前胃癌との鑑別が困難であったAFP産生膵腺房細胞癌の1例

山梨大学 医学部 第一外科
吉岡 良造、河口 賀彦、河野 浩二、平井 優、水上 佳樹、藤井 秀樹

 膵腺房細胞癌は、膵腫瘍のなかでも1-2%と稀な疾患である。今回われわれは、術前、胃癌との鑑別が困難であったAFP産生膵腺房細胞癌を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。症例は63歳の男性。2008年3月より黒色便を自覚し、近医受診。上部消化管内視鏡検査にて胃体中部に発赤病変を認め、生検の結果、中分化型管状腺癌と診断されたため、当科入院となった。入院時身体所見としては、腹部に腫瘤は触知せず、圧痛は認められなかった。血液検査所見では、軽度の貧血を認めたが、膵酵素の上昇は認められなかった。腫瘍マーカーでは、AFP 871.1ng/mlと高値を認めたが、その他のマーカーは正常範囲内であった。上部消化管内視鏡検査では、胃体中部大弯に発赤と粘膜の肥厚を認め、超音波内視鏡検査では、1-4層の肥厚を認めた。腹部CTでは、左上腹部に径10cmの巨大な腫瘤を認め、胃、膵尾部、脾臓への浸潤が疑われた。腫瘤は、不均一な造影効果を認め、中心は造影効果を認めない部分を有していた。また、脾静脈に腫瘍塞栓を認めた。MRI検査で内部は脂肪抑制T2強調像で高信号、造影効果を認めず、壊死と考えられた。胃もしくは膵原発の腺癌と診断し、左上腹部内臓全摘術を施行した。肉眼的所見は、腫瘍は黄色調で分葉状を呈しており、胃、膵臓、脾臓と一塊となっていた。組織学的には、腺房状もしくは小型管状構造の集簇からなり、細胞質は好酸性細顆粒状であった。免疫染色でanti-trypsin陽性であり、膵腺房細胞癌と診断した。また、AFP染色でも少数の癌細胞に明らかな陽性像が認められた。なお、リンパ節転移は認められなかった。現在術後3ヶ月であるが、AFPも正常化し、明らかな再発を認めていない。