日本消化器内視鏡学会甲信越支部

22.当院にて経験した穿通性十二指腸潰瘍の3症例

飯山赤十字病院 内科、
山田 重徳、岩谷 勇吾、富田 俊明、横澤 秀一、村木 崇、上條 浩司、古川 賢一
飯山赤十字病院 外科
石坂 克彦、中村 学、柴田 均、渡邉 隆之

 【症例1】63歳男性。倦怠感と上腹部痛にて体動困難となり、当院救急外来を受診し、Hb 4.2と著明な貧血を認めた。上部消化管内視鏡(以下EGD)では十二指腸球部前壁に広範な深掘れ潰瘍を認め、潰瘍底には拍動する巨大な露出血管が存在した。同血管に対し、クリップによる止血術を施行したところ、噴出性に出血し、クリップの追加により一時的に止血したが、翌日にも再出血をきたした。内視鏡的止血は困難と判断し、緊急手術(幽門側胃切除、B-II再建)を行い、出血部は肝十二指腸間膜右背側から後腹膜組織に移行する付近の血管と推測された。【症例2】80歳女性。心窩部痛、黒色便を主訴に当科受診し、Hb 3.8と貧血著明であり、EGDにて十二指腸球部前壁に広範な潰瘍を認めた。潰瘍底には露出血管が存在したが、活動性出血はなく、広範な深掘れ潰瘍であることから、穿通性潰瘍と考えられ、止血処置は行わず、経過観察とした。EGD後に施行した腹部CTでは潰瘍底と胃十二指腸動脈の距離はわずか3mmであった。2週間の絶食の後、EGDにて潰瘍が治癒傾向であることを確認し、食事を再開したが、2日後に黒色便が出現。緊急EGDにて潰瘍底に凝血塊の付着を認めたが、活動性出血はなく、経過観察とした。以後も中心静脈栄養にて加療したが、カテーテル感染後に全身状態悪化し、永眠された。【症例3】60歳男性。心窩部痛、吐下血にて当院へ救急搬送され、Hb 10.6と貧血を認めた。EGDでは十二指腸球部前壁に広範な潰瘍と凝血塊を認めたが、穿通性潰瘍を疑い、止血処置は行わず、経過観察とした。翌日、黒色便、血圧低下を認め、Hb 5.7と貧血が進行したため、緊急EGD施行。潰瘍底に白色の拍動性血管を認め、血管表面に赤色栓が存在し、同部が出血点と考えられた。内視鏡的止血は困難と判断し、緊急手術(幽門側胃切除、B-II再建)を施行。潰瘍底には動脈瘤を形成した胃十二指腸動脈を認め、同部が出血源と考えられた。当院で経験した3症例の特徴として、著明な貧血、前壁を中心とした広範な潰瘍、巨大な露出血管の存在があげられるが、穿通性十二指腸潰瘍のまとまった文献はなく、若干の考察を含めて報告する。