日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.門脈内ガスを認めた急性胃蜂窩織炎の1例

信州大学医学部附属病院 消化器内科
伊藤 哲也、米田 傑、須藤 桃子、丸山 雅史、長屋 匡信、竹中 一弘、市川 真也、武田 龍太郎、須藤 貴森、白川 晴章、北原 桂、田中 栄司
信州大学医学部附属病院 内視鏡診療部
赤松 泰次
信州大学医学部附属病院 消化器外科
荻原 裕明、石曽根 聡、小出 直彦

 症例は23歳男性。松果体部腫瘍に水頭症を合併し、平成20年2月19日に当院脳神経外科に緊急入院した。両側にV-Pシャント術を行い、腫瘍切除および放射線療法を施行した。その後意識が改善せず、寝たきり状態のまま経鼻経管栄養とPPI投与を行っていた。5月30日より38℃台の発熱と嘔吐が出現し、31日には胃管から血性物の逆流を認めた。WBC 21400/μlおよびCRP 3.55mg/dlと急性炎症所見がみられ、炎症巣検索のため行った腹部造影CTでは胃壁全体の肥厚と壁内ガス、更に門脈本幹から肝内門脈にガスを認めた。画像所見および臨床経過から急性胃蜂窩織炎を疑い、緊急上部消化管内視鏡検査を施行した。胃体部から噴門にかけて発赤した浮腫状粘膜を認め、びらんや潰瘍および白苔の付着を伴っていた。同時に行った超音波内視鏡では第3層と4層が肥厚し境界が不鮮明であった。胃生検では高度な好中球浸潤を認め、腫瘍成分は認められなかった。胃粘膜培養および胃液培養からはEnterobacter aerogenesおよびEnterococcus faecalisが検出され、以上より急性胃蜂窩織炎と診断した。内視鏡検査後からIPM 2.0g/dayおよびCLDM 2400mg/dayを開始し絶飲食とした。治療開始後は良好に炎症所見が改善し、抗生剤は6月10日(11日間)までで終了した。6月16日に内視鏡で再評価したところ、胃体部大弯に軽度発赤を認めるのみであった。6月17日の腹部造影CTでは門脈内ガスは消失し、胃壁肥厚も改善していた。その後経管栄養を再開したが増悪なく、完治したものと考えられた。本例は松果体部腫瘍術後および放射線治療後に寝たきり状態が続いておりcompromised hostであった。また発症前にPPI投与、経鼻経管栄養を行っており、これらが胃蜂窩織炎発症の誘因たなった可能性があると考えられる。医学中央雑誌での検索では、1998年〜2008年までの10年間に胃蜂窩織炎として会議録を含め33症例が報告されている。このうち門脈内ガスについて言及されているものは1例のみであった。