日本消化器内視鏡学会甲信越支部

16.胃ポリポーシスが発見の契機となったattenuated familial adenomatous polyposisの1例

山梨大学 医学部 第1内科
岩本 史光、大高 雅彦、山口 達也、松井 啓、進藤 浩子、植竹 智義、高野 伸一、三浦 美香、大塚 博之、佐藤 公、榎本 信幸

 attenuated familial adenomatous polyposis (AFAP)は、familial adenomatous polyposis (FAP)の一亜型と考えられ、本邦では十数家系のみの報告である。今回、APAP症例を経験したので報告する。症例は41歳、女性。主訴は上腹部痛。家族歴では、父が67歳時に大腸癌・大腸ポリポーシス・胃ポリポーシス。現病歴では、2000年(父に大腸癌を指摘された際)に大腸鏡を行うも異常なし。2005年5月上腹部痛を訴え近医を受診した。上部消化管内視鏡を行ったところ胃ポリポーシスを指摘された。2005年6月に大腸鏡を施行するも異常所見を認めなかった。2005年12月転勤に伴い胃ポリポーシスの経過観察目的に当科紹介となった。身体所見および血液検査所見に異常なし。上部消化管内視鏡では胃底部から胃角部にかけて10mm以下の無数のポリープが集簇していた。前庭部・十二指腸には病変を認めなかった。発赤した10mmのポリープより生検を行った。組織学的には胃底腺の増生で一部にcysticな拡張を認め、胃底腺の増生による過形成性ポリープと考えられた。2007年6月の全大腸鏡でもポリープは見出せなかった。眼底検査・腹部超音波検査で異常を認めなかった。本人・家族の同意を得て(遺伝相談の行えることを説明の上)、末梢血から抽出したDNAを用いてAPC 遺伝子を検索した。AFAPの変異部位として報告されている Exon 3 のcodon 99-100 に1塩基ベースのdelectionを認め、この結果 CGG GAA → CGG AAGとなりcodon 124にstop codonを生じるframe shift mutationを認めた。以上よりAFAPと診断し外来で経過観察を続けている。AFAPは常染色体優勢の遺伝様式をとり、発生するポリープは100個以下で右側大腸に好発し、発症年齢は通常のFAPより15年ほど遅いという特徴を有している。本例では40歳でも大腸ポリープを認めていない。胃・十二指腸病変の合併頻度が高いと報告されていることから、胃ポリポーシスより発見される症例も存在しうる。大腸ポリープが発症時に存在しなくても、60歳までにはその80%に大腸癌が発生すると推定されていることから、本症を念頭におき十分な経過観察が必要と考える。