日本消化器内視鏡学会甲信越支部

15.拡大観察を行ったCronkhite-Canada症候群の一例

長野中央病院 消化器内科
小島 英吾、冨田 明彦、木下 幾春、松村 真生子

 症例は79歳女性.平成20年5月某日に約2か月前より自覚した毛髪の脱毛,手足の色素沈着,食欲不振の精査目的に近医より紹介となった.家族歴に特記事項はない.血液検査では血清アルブミンが2.9g/dlと軽度低下していた以外は,特筆すべき所見はなかった.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃前庭部を中心に胃体部まで著明に発赤したポリポーシス様の腫大した粘膜を認めた.その部の拡大内視鏡所見は,腺管開口部周囲の間質が著明に拡張しており,全体的に高度の浮腫をきたしている興味深い所見を呈していた.十\二指腸にはポリポーシス様所見は認めなかったものの,全周性に粗ぞうとなっていた.下部内視鏡所見は直腸から深部結腸まで徐々に高度となる斑状発赤所見を呈し,盲腸と上行結腸には,胃でみられたポリポーシス様所見が存在していた.胃生検では,炎症細胞浸潤を伴う粘膜固有層の著明な浮腫を呈しており,内視鏡所見は組織学的特徴を明瞭に反映していた.全身の診察において上記消化管病変に加え,毛髪,眉毛,陰毛の脱毛,手足のびまん性色素沈着,手足爪甲剥離を認め,Cronkhite-Canada症候群と診断した.精査中に食欲不振は軽快し,脱毛も軽快傾向を示したため,内服加療は行わず経過観察する方針とした.現在までの約3ヵ月間の経過では,血清アルブミン値はほぼ不変で,胃の所見はわずかに浮腫が軽快したのみであるが,毛髪はほぼ回復し,爪の新生も見られるようになり,全体としては自然軽快してきている.今後も引き続き悪性疾患の発生に留意しつつ慎重に経過観察する予定である.拡大内視鏡所見が,その組織学的特徴を明瞭に捉えることのできたCronkhite-Canada症候群の一例を経験したため報告する.