日本消化器内視鏡学会甲信越支部

14.消化管に複数の病変を認めたAPI2-MALT1陽性胃MALTリンパ腫の1例

長野中央病院 消化器内科
木下 幾晴、小島 英吾、松村 真生子、冨田 明彦

 API2-MALT1陽性胃MALTリンパ腫は,ピロリ除菌療法に抵抗性であり,その長期予後や進行例の治療については未だ解明されていない点も多い.今回我々は消化管内に複数の病変を認めたAPI2-MALT1陽性胃MALTリンパ腫の1例を経験したので報告する.症例は65歳男性.数ヶ月前からの空腹時の胸焼け,もたれ感を主訴に当院に受診された.既往歴としては,糖尿病,高血圧にて現在内服加療中である.上部消化管内視鏡検査にて胃角部から前庭部の前壁にかけての多発性の深掘れ潰瘍と胃体部小彎から後壁の境界不明瞭な褪色調の陥凹性病変を認めた.胃角部のEUSは比較的均一な低エコーレベルを呈していた.潰瘍の影響もあるため正確な進達度診断は難しかったが,潰瘍部では最外層よりも深く浸潤している可能性も否定できなかった.生検にてMALTリンパ腫と診断されたが,H.pyloriは陰性であった.さらに遺伝子検索を行ったところ,API2-MALT1キメラ遺伝子陽性と判明した.その後の全身検索のため施行した下部内視鏡検査では,直腸RsからRaに全周性の糜爛,易出血性粘膜があり,同部の生検からも胃と同様のMALTリンパ腫が認められた.PET,骨髄穿刺,CTなどではその他臓器には転移を示唆する所見は認められなかった.以上により消化管に複数の病変を有する胃MALTリンパ腫,Modified Blackledge staging system for gastrointenstinal lymphomasによるstage1と診断した.しかし,胃から大腸への病変の進展を考えると、たとえstage1であっても全身的な病態とするべきと考え,シクロフォスファミド100mg/日経口投与で治療を行った.治療後3ヶ月の評価では,胃と大腸の病変はほぼ不変であり増悪は認めないと判断し,現在治療を継続している.API2-MALT1陽性胃MALTリンパ腫はピロリ除菌療法に抵抗性があること,DLBCLへの移行の報告はないことが知られている.臨床病期2以下で発見されることも多いとされているが,本症例のように消化管を含む多臓器に転移する例の報告は稀である.臨床病期や治療法についてもさまざまな意見があるのが現状であり,文献的考察を加えて報告する.