日本消化器内視鏡学会甲信越支部

11.粘膜内癌にもかかわらずリンパ管浸潤をきたした胃癌の1例

諏訪赤十字病院 消化器内科
大久保 洋平、進士 明宏、武川 健二、望月 太郎、太田 裕志、山村 伸吉、小口 寿夫
諏訪赤十字病院 外科
五味 邦之、島田 宏、梶川 昌二
諏訪赤十字病院 病理
中村 智次

 要旨 症例は77歳、女性。主訴は心窩部痛。2008年4月より心窩部痛が出現し、5月17日近医で上部消化管内視鏡検査により腫瘍を認め、当科紹介となった。再検したところ、前庭部大弯前壁寄りに長径約20mm大の2a+2c病変を認めた。肉眼所見上ul(−)で、明らかなSM浸潤を示唆する所見はなく、病変部の生検ではGroup V、papの所見であり、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の適応と判断し同月27日ESDを施行した。切除標本割面像は粘膜筋板直上までの粘膜内癌であったが、粘膜内のリンパ管に癌の浸潤を認めた。病理所見は、20×8mm、pap/tub1>tub2、pT1(M)、ly1、v0、ul(−)、pLM(−)、pVM(−)、cur Bであった。リンパ節転移のリスクを考慮し追加手術の適応と判断、7月3日幽門側胃切除術を施行した。手術標本では遺残はなく、リンパ節転移を認めなかった。本邦の報告ではpapの成分の割合が増加するに従ってリンパ管侵襲陽性率、静脈侵襲陽性率、リンパ節転移陽性率が増加すると結論されている。本例も一部に管状腺癌が混じっているが主体は乳頭腺癌であり、このことがリンパ管侵襲のリスクとなった可能性がある。また、リンパ管侵襲陽性例ではリンパ節転移のリスクが高くなるとの報告があり、近年、表在型かつ組織型が分化型でulがなければ、長径にかかわらず、ESDの適応といわれているが、乳頭腺癌例では、他の分化型癌に比べ、EMR/ESDの適応について基準を厳しくする必要があると思われる。