症例74歳女性。主訴、吐血および意識障害。既往歴に糖尿病、Rendu-Osler-Weber病がある。また脊柱管狭窄症、右大腿骨頸部骨折などの整形外科的疾患のためNSAIDsを頻用しており、NSAIDs潰瘍のため3回の入院加療歴があった。2008年5月13日夕方から体調不良のためインスリン自己注射を中断していた。翌朝、茶褐色の嘔吐が出現したため救急車で搬送された。来院時、意識障害と高血糖(1049 mg/dL)を認め、糖尿病昏睡と診断しインスリン持続投与を開始した。また黒色便を認めたため緊急上部消化管内視鏡検査を行ったところ、食道入口部からびらんと黒色斑を認め、胸部食道上部より食道胃接合部粘膜の全周性に黒色調変化を認めた。胃は体中部小彎を中心に多発性潰瘍を認め、十二指腸球部から下行部にも同様の潰瘍が多発していた。血液検査では貧血と低栄養状態を認めた。絶食およびPPI投与にて保存的に加療した。第3病日の内視鏡検査にて胃十二指腸潰瘍は改善していたが、食道粘膜はさらに暗色調が増悪していた。食道胃接合部および上部食道の生検では、血管壁や粘膜筋板が一部に残存するものの、全体が凝固壊死を呈しており好中球などの炎症細胞が浸潤していた。第24病日の再検では食道の黒色変化は改善しつつあった。生検では核内封入体を認め、免疫染色および血清抗体価からもヘルペス食道炎の合併を否定できなかったが、保存的加療で改善し退院となった。
急性壊死性食道炎の危険因子として、高齢・血圧低下・腸閉塞・腎不全・低栄養・糖尿病・高血糖が報告されているが、本例では低栄養と高血糖が大きく影響していると思われた。過去に急性壊死性食道炎の