日本消化器内視鏡学会甲信越支部

3.静脈瘤合併食道表在癌のESD

佐久総合病院 胃腸科
草場 亜矢子、小山 恒男、宮田 佳典、友利 彰寿、堀田 欣一、高橋 亜希子、北村 陽子、船川 慶太、三池 忠、柴垣 恒太郎、西山 祐二

 静脈瘤上の食道表在癌に対する内視鏡治療では、静脈瘤破綻による大量出血や出血傾向による視野の悪化が予測される。従来はEISやEVL後にEMRを行うという手法が報告されていたが、sm層の線維化により切除が困難となる場合があった。一方、ESDではsm層の血管を注意深く観察することで出血を予防することが出来る。静脈瘤合併食道表在癌に対し、十分に準備を行うことで安全にESDを施行し得た症例を経験したので報告する。

【症例】77歳男性。C型肝硬変で、血小板減少症(9.8万)を認め、また食道静脈瘤に対するEVLの既往がある。病変は中部食道後壁にある大きさ約30mmの0-IIc型SCCで、2条の静脈瘤(Lm, Cb, F2, RC+, Lg-c+)の上に存在した。また病変の肛門側縁にEVL瘢痕を認めた。EUSでは病変直下のsm層に拡張した静脈瘤を認め、深達度はm2と考えられた。まず静脈瘤の縮小を図るため、ESDの2か月前に、病変から肛門側へ約3cm離してEVLを施行した。静脈瘤は軽度消退傾向であったがESD時には残存していた。まず静脈瘤の左右の粘膜を浅く切開し、静脈瘤と粘膜の間にHookナイフを挿入して慎重に粘膜を切開し、静脈瘤を露出した。次に止血鉗子にて静脈瘤を把持し、soft凝固にてprecoagulationした後、フックナイフにて出血させること無く切断した。病変の肛門側にはEVLによるsm層の線維化を認めたが、筋層のすぐ上側を剥離していくことで瘢痕部を剥離した。穿通枝に対するprecoagulationを加えつつ、静脈瘤と筋層の間を慎重に剥離し、切除時間160分で病変を一括切除した。術後の胸部レントゲン写真では縦隔気腫を認めなかったが、軽度の誤嚥性肺炎を認めた。病理組織学的診断ではSCC、T1a-LPM、脈管浸潤・断端共に陰性で、根治度EAであった。

静脈瘤合併表在食道癌でも、戦略と手技を工夫することでESDを安全に行うことができると考えられた。