日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.Dynamic chemical法が診断に有用であったBarrett腺癌の1例

長野市民病院 消化器科
立岩 伸之、長谷部 修、彦坂 吉興、須澤 兼一、越知 泰英
同 病理
保坂 典子

  症例は50歳代の男性。生来健康。2008年6月23日に当院の人間ドックを受診され,上部消化管内視鏡検査を行った。食道胃接合部右壁から後壁にかけてshort segmentのBarrett上皮を認め,1時方向に発赤調の平坦な領域が存在した。通常観察では長楕円形のピット(long oval)が観察された。同部位に1.5%酢酸散布を行ったところ15秒程で白変の消失を認め,Barrett腺癌が疑われた。生検では表層を覆う腺上皮は異型に乏しくdysplasia様の所見であったが,Barrett食道粘膜の増殖帯にある腺管には核の腫大および重層化がみられ,わずかながら異型核分裂像を認めた。p53陽性,ki67陽性率 60%よりBarrett腺癌と診断した。7月22日にESDを施行した。病理組織診断は0-IIb, 15x8mm, tub1, m, ly0, v0, LM(-), VM(-)であった。癌の周囲には一部dysplasiaを認めた。Barrett食道に合併するdysplasiaや早期癌は肉眼的変化に乏しく,ピット不整や不整血管を認めない症例での内視鏡診断は一般に困難とされている。本症例では1.5%酢酸散布にて病変を明瞭に認識することが可能であった。切除標本の病理組織像との対比により,スクリーニング内視鏡時のDynamic chemical法の有用性が示されたため報告する。