日本消化器内視鏡学会甲信越支部

1.ESDにて切除した下咽頭癌の一例

信州大学附属病院 消化器内科
市川 真也、米田 傑、伊藤 哲也、須藤 桃子、須藤 貴森、武田 龍太郎、竹中 一弘、長屋 匡信、白川 晴章、北原 桂、田中 榮司
信州大学附属病院 内視鏡診療部
赤松 泰次
伊那中央病院 消化器科
井上 勝朗

 症例は76歳の男性。2001年12月に下部食道癌に対して外科手術を施行され、以後定期的に上部消化管内視鏡検査(EGD)を受けていた。2008年4月に伊那中央病院で施行されたEGDにて左下咽頭に径約10mm大の扁平隆起性病変を指摘され、生検で高分化扁平上皮癌と診断された。同年4月、内視鏡治療目的に当科を紹介された。術前に行ったNBI併用拡大内視鏡では、同部位にbrownish area及び不整なIPCLの増生を認めたが、深部浸潤を示唆する所見はみられなかった。同年5月に全身麻酔下で、フックナイフを用いて内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行った。切除標本は18×17mmで、病理組織所見では、核の腫大した異型上皮細胞が全層性の増殖を示し、一部では角化を伴っていた。大部分は上皮内癌で、一部で上皮下浸潤を認めたが、明らかな脈管侵襲は認めなかった。断端は水平断端はマーキングによる熱変性のためにやや不明瞭であったが、深部断端は陰性であった。術後、瘢痕狭窄による嚥下・発声障害などは認めなかった。近年、中・下咽頭領域の早期癌が、スクリーニングEGD時に発見されるようになった。頭頚部癌と食道癌は高率に合併することが知られており、本例のような食道癌既往歴のある患者は、咽頭部における注意深い内視鏡観察が必要と考えられる。