日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.診断・治療に難渋した膵腺房細胞癌の1例

長野県立木曽病院 外科
小山佳紀、大町俊哉、久米田茂喜
内科
高橋俊晴、小松健一、飯嶌章博
信州大学病理学教室
下条久志

【緒言】今回我々は、診断・治療に難渋した、比較的稀な、膵腺房細胞癌の1例を経験したので報告する。【症例】症例は75歳男性。胃癌手術既往、脳梗塞後遺症、COPDがあり、Performance status3、在宅酸素療法施行中である。H19年8月、腹痛を主訴に受診。CTでは十二指腸乳頭部から膵頭部の主膵管内に充実性病変を認め、膵体尾部の膵管、総胆管の拡張を伴っていた。ERCPを試みるも、十二指腸乳頭部に露出する腫瘤を認め、カニュレーションできず断念した。MRCPでは膵頭部での主膵管の途絶を認めた。十二指腸乳頭部病変の生検を8月〜9月の間に計3回施行したが、神経内分泌腫瘍の可能性が示唆されはするものの悪性病変の確定診断は得られず、全身状態や手術侵襲を考慮し、安易には手術に踏み切れずにおり、一時退院、外来経過追跡とした。約2か月の経過の後、腹痛再燃、摂食不良となり10月再入院。CA19-9 50 U/mlと上昇を認め、CTでも膵腫瘍の急速な増大を認め、腹部所見でも明らかに腫瘤を触知する状態となっており、10月29日に膵頭十二指腸切除術に踏み切った。病理診断結果は腺房細胞癌、T2N0,StageIIであった。周術期を乗り切れるか懸念もあったが、紆余曲折を経ながら、少しずつ経口摂取も増加し12月27日退院に至った。【考察】膵腺房細胞癌は膵臓癌の1%程度の頻度であり、比較的稀な疾患といえる。膵頭部に多い傾向を認め、本症例と同様に、膵管内腔に腫瘍栓を形成した報告例や、通常の膵管癌とは異なり、尾側膵管の拡張変化は軽度で圧排像が中心である症例の報告例が複数認められ、本腫瘍の特徴である可能性が示唆される。膵腺房細胞癌に関し若干の文献的考察を加え発表する。