日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20.膵性腹水後に膵仮性嚢胞をきたした1例

新潟市民病院消化器科
河久順志、古川浩一、五十嵐健太郎、濱 勇、横尾 健、相場恒男、米山 靖、和栗暢生、杉村一仁、月岡 恵
同放射線科
高橋直也

【抄録】症例は40歳代の男性、常用飲酒家、入院3週間前から徐々に腹部膨満増悪し当科受診、入院。身体所見では、腹部膨満し全域に圧痛を認めたが腹膜刺激徴候は認めなかった。検査所見では、高度の炎症所見と、血中、尿中アミラーゼの上昇、凝固能異常を認めた。画像所見では、比較的高吸収の腹水を多量に認め、膵体尾部の主膵管拡張、膵実質に著明な石灰化と膵石形成を認め、脾静脈の描出は不良であった。腹水は、血性でアミラーゼ高値、細胞診ClassU、培養陰性であり、以上より慢性膵炎の増悪による膵性腹水、脾静脈血栓症と診断。蛋白分解酵素阻害剤、利尿剤、アルブミン製剤、ダナパロイドナトリウム点滴静注による治療を開始。しかし、腹水は軽快せず、膵管から腹水へ膵液の漏出が持続していると考えられた。第23病日のERPでは、主膵管膵頭部の狭窄、硬化が高度でガイドワイヤーの挿入は可能であったがドレナージチューブの留置は断念。第31病日よりオクトレオチド皮下注射開始。下腹部膨隆は改善したものの、第60病日より38度台の発熱あり、心窩部に緊満感を生じ始めた。腹部CTにて、胃下背面に主膵管との交通を認める最大径21cmの嚢胞性腫瘤の形成を認めた。MRCPでも主膵管と嚢胞の交通が確認され、感染性膵仮性嚢胞と診断。経胃嚢胞ドレナージを予定していたが、実施前々日に水様下痢あり、その後、心窩部の緊満感は消失し、解熱。第72病日、腹部CTで、嚢胞の縮小、内部にair densityを認め、上部消化管内視鏡検査で胃前庭部に瘻孔を確認。造影剤を注入し嚢胞との交通を確認、瘻孔閉鎖予防のため7Frピッグテールチューブを留置。以後、発熱、腹痛訴えることなく第90病日退院。フォローアップのCTで嚢胞の消失は維持されている。なお、嚢胞の自然穿破後、上部消化管内視鏡検査で胃静脈瘤一過性の増悪を認めた。以上、慢性膵炎に伴う膵性腹水後に膵仮性嚢胞をきたし、胃に自然穿破した1例を経験したので報告する。