日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.嚢胞内出血と閉塞性黄疸を来し総胆管との交通を認めた膵仮性嚢胞の一例

新潟大学大学院消化器内科学分野
五十嵐 聡、野澤優次郎
新潟県立新発田病院内科
夏井正明、杉山幹也、姉崎一弥、渡邉雅史、本間 照

症例は70歳代、男性。家族歴,既往歴に特記すべきことなく、飲酒歴もほとんどない。平成19年11月半ばより食欲低下,上腹部痛、12月初めより灰白色便,褐色尿が出現した。12月25日に腹痛が増強したため当科を受診。現症では黄疸と上腹部に圧痛を、検査成績では炎症反応,肝胆道系酵素,直接ビリルビン,膵酵素の上昇を認めたため、入院となる。USでは肝内胆管及び総胆管の拡張、総胆管内にやや高輝度の構造物、膵頭部にカラードップラーで著明な血流シグナルを伴う大きさ30mmの嚢胞性病変を認めた。CTでは総胆管内の構造物はやや高濃度を呈し、膵頭部の嚢胞は著明に造影された。MRCPでは嚢胞より尾側膵管の拡張と膵頭部及び鉤部の分枝膵管の不規則な拡張を認めた。血管造影ではCAGで胃十二指腸動脈から,SMAGで前上膵十二指腸動脈・右胃大網動脈移行部付近から膵頭部の嚢胞内に噴き出す血流を認めた。以上より、慢性膵炎に伴う膵仮性嚢胞内出血と診断し、遠位側は右胃大網動脈に,近位側は前上膵十二指腸動脈と胃十二指腸動脈にそれぞれコイリングを施行した。術後のUS及びCTで嚢胞内への血流は消失し、腹痛も劇的に改善した。第11病日のERPでは膵頭部主膵管に連続して嚢胞が造影され、次いで拡張した総胆管が造影され、膵頭部及び鉤部の分枝膵管の不規則な拡張を認めた。第15病日のEUSでも嚢胞と拡張した尾側膵管及び総胆管との連続性を認めた。その後の経過は良好で、炎症反応は陰性化、肝胆道系酵素も徐々に低下し、第21病日に退院した。総胆管との交通を有する膵仮性嚢胞はまれと考えられ、若干の文献的考察を加えて報告する。