日本消化器内視鏡学会甲信越支部

15.急性胆嚢炎を契機に発見された非露出腫瘤型乳頭部腺腫の1例

長野赤十字病院消化器科
コ竹 康二郎、伊藤 哲也、今井 隆二郎、三枝 久能、原 悦雄、森 宏光
同 総合診療科
金児 泰明
同 外科
町田 泰一、西尾 秋人、中田 伸司、袖山 治嗣

症例は75歳,女性。主訴は右季肋部痛と発熱。現病歴は約20年前から胆石を指摘されていたが、2007年11月11日から腹痛が出現し近医を受診。腹部超音波検査にて胆嚢結石,胆嚢壁肥厚を認め急性胆嚢炎を疑われ当科へ紹介入院となった。

入院時現症は体温38.6℃の発熱と右季肋部に圧痛を認めた。貧血,黄疸は認めなかった。入院時検査所見でも白血球数とCRPの上昇を認めたが、肝胆道系酵素には異常を認めなかった。入院後、抗生剤投与による保存的加療にて胆嚢炎は改善した。しかし腹部超音波検査、腹部CT検査、腹部MRI検査にて総胆管拡張所見と下部胆管内の腫瘤様陰影を認めたため、胆管の精査を行った。超音波内視鏡では下部胆管に15mm大の結節様隆起を認めた。内視鏡的逆行性膵胆管造影検査では、下部胆管に透亮像を認め、胆管内超音波検査では結節様隆起として認められた。同時に施行した胆汁細胞診ではclassVで、胆管生検では腺腫と診断された。しかし高分化型腺癌の可能性は否定できず、患者に十分なインフォームドコンセントの上、外科的切除を行うこととした。

2008年1月24日に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行。術後の病理標本ではVater乳頭部に比較的丈の低い扁平隆起を認め、病理組織学的には長円形の核と淡く染まる細胞質を有する円柱上皮細胞が大小乳頭状に増殖しており、表層部にはやや異型の強い細胞が認められた。免疫染色ではKi67は腫瘤部粘膜の表層や拡張した胆管粘膜に多数陽性であったがp53は陰性であり、非露出腫瘤型乳頭部腺腫と診断した。術前に超音波内視鏡や胆管内超音波検査にて結節様隆起として認められた病変は胆管内のsludgeを見ていた可能性が考えられた。

Vater乳頭部の露出型腺腫はしばしば発見されるが、非露出腫瘤型乳頭部腺腫は希な疾患と考えられ若干の文献的考察を加え報告する。