日本消化器内視鏡学会甲信越支部

9.上部消化管内視鏡検査におけるペパーミントオイルの有用性

長岡赤十字病院 消化器内科
山田 聡志、三浦 智史、中村潤一郎、三浦 努、柳 雅彦、高橋 達
坪井医院
坪井 康紀

上部消化管内視鏡(以下GIF) では鎮痙剤として一般的に抗コリン剤の筋肉内注射が用いられている。昨今、被験者の高齢化により、抗コリン剤禁忌疾患を有する例が増加しているが、その際には鎮痙剤を用いないか、グルカゴンを用いてGIFを施行する場合がほとんどであるが、観察のしやすさ、費用などの面から問題が残る。今回我々は腸管の蠕動抑制に安全にかつ安価に使用できるペパーミントオイル(以下PO)撒布を使用し、その有用性を検証したので報告する。

対象は心疾患などで抗コリン剤禁忌の患者46例(男33例、女13例、平均年齢65.3歳)で、施行医は日本消化器内視鏡学会専門医6名と非専門医2名であった。以前にペパーミント食品の摂取で気分不快になった既往があるか問診し、PO使用の同意を書面にて取得した。GIF時に幽門輪の撮影が終了してからPO(1.6%に調整したもの)を直接前庭部粘膜に撒布し、その後十二指腸へ挿入、観察してから再び胃内観察とした。所要時間は幽門輪の撮影時から色素撒布、生検などの処置の前の撮影まで、観察だけの場合は胃内の最後の撮影までの時間とした。その結果、被験者へのアンケート調査では前回までの検査と変わりないという回答が36例(78.2%)で最も多く、前回より楽であったとの回答も5例(10.9%)あった。POの匂いは気にならないという回答が42例(91.3%)と最も多く、次回もPO使用を希望するとした回答が42例(91.3%)であった。施行医師へのアンケート調査では蠕動抑制効果を認めた症例が39例(84.8%)で、本法の問題点とされる吸引時間の延長、色素検査がやりにくいなどの感想は1例(2.1%)のみであった。所要時間は全例の平均で204.37秒であり、前回も当院でGIFを施行し、今回と比較可能であった28例ではPOなしで199.67秒、POありで196.28秒と有意な検査時間の延長は認めなかった。また撒布後の副作用は認めなかった。費用的にはブスコパン(20mg)が64円、グルカゴン(1mg)が2,801円、POは一回量20mlで7.6円と非常に安価であり、また効果が減弱しても追加撒布が可能であった。被験者側には、PO使用による明らかな有益性は費用の点を除けば認めなかったが、医師側では、85%の症例でペパーミントオイル撒布後、比較的速やかに蠕動停止効果が確認可能であり、PO撒布による観察、染色の不都合はほとんど認めなかった。POはGIFだけでなく、CFやERCPにも使用可能であり、また、抗コリン剤禁忌例以外にも使用可能であり、針刺し事故の防止にも役立つことからPOは非常に有用であると考えられた。