日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.内視鏡的に治療した食道カルチノイドの1例

新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
佐藤俊大、小林正明、五十川正人、田村康、塩路和彦、竹内学、川合弘一、大越章吾、青柳豊
新潟大学医歯学総合病院 光学医療診療部
成澤林太郎
長岡赤十字病院消化器内科
柳雅彦、高橋達
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子診断病理学分野
加藤卓、味岡洋一

今回我々は下部食道に認められた径1.2mm大のカルチノイドに対し内視鏡的粘膜下層切開剥離術(以下ESD)を施行した1例を経験したため、若干の文献的考察を加え報告する。

症例は55歳女性。'07年6月のドックの上部消化管内視鏡検査にて下部食道に径3mm大の発赤調粘膜下腫瘍様の隆起性病変が認められ、生検にてカルチノイドと診断された。全身CT等にて遠隔転移はみられず、ESDの適応と考えられたため当科紹介となり、9月5日当科入院となった。既往歴・家族歴に特記すべき所見なく、飲酒歴・喫煙歴および薬歴はなかった。

入院時身体所見および各種検査所見に異常はみられず、9月6日同病変に対してESDが施行された。切除標本では病変は1.2×0.8mm、強発赤調のわずかに隆起する類円形病変と認識できた。病理診断は索状、リボン状配列を示し、豊富な血管を有するカルチノイドで、粘膜固有層から粘膜筋板にかけて増殖し、脈管侵襲陰性、垂直断端および水平断端陰性であった。

食道カルチノイドは極めて稀で全カルチノイドの1.6%の発症頻度とされており、検索した限りでは、現在までに内外で23例が論文として報告されているのみである。内視鏡的に径10mm以下の病変では、一様な発赤調を呈する粘膜下腫瘍で表面に溝状の凹みを有するとされている。本症例では、サイズが小さいため凹みはみられなかったが、強い発赤調を呈していたことが特徴的であった。

本症の予後は極めて不良とされていたが、近年内視鏡の発達から早期発見されるケースがみられるためか、予後が向上してきているとの報告もある。食道カルチノイドの成因・予後については未だ不明な点が多いことから、本症例においても厳格な経過観察が必要と考えられた。