日本消化器内視鏡学会甲信越支部

1.腹部CT検査が診断に有用であり腹腔鏡下手術をおこなった食道裂孔ヘルニアの一例

丸の内病院消化器内科
山本香織、中村直
長野市民病院消化器外科
宗像康博

症例は79歳、女性。主訴は嘔吐。糖尿病、高血圧症、不整脈、狭心症、喘息などで当院内科外来を定期通院していた。約5ヶ月前に行った上部消化管内視鏡検査では、混合型食道裂孔ヘルニア、慢性胃炎の診断であった。約2週間前より嘔気はないものの、経口摂取をすると嘔吐することがあったが、その頻度が増し、特に夜間臥床時に多量に嘔吐するようになり入院した。腹部CT検査をおこなったところ、下部食道の軽度拡張と、腹腔側には正常な胃体部の他に、盲端となり充満した胃の一部が認められた。CT所見より混合型食道裂孔ヘルニア、胃軸捻転の状態にあると考えられた。上部消化管内視鏡検査でもそれに合致する所見が得られた。上部消化管X線検査では噴門部より先へ造影剤が進まず、口腔内に逆流するのみであったため、経口摂取は不可能と判断した。透視下で胃管挿入を試みたが胃の盲端側にしか進まず、内視鏡観察下に鉗子で胃管を把持して胃前庭部にその先端を留置した。経鼻経管栄養が可能となり、待機的に腹腔鏡下Nissen 法にて噴門形成術をおこなった。術後経過は順調であり、常食の摂取が可能となった。

食道裂孔ヘルニアは比較的頻度の高い疾患であり、その背景としては高齢、女性、肥満などが挙げられる。保存的に加療することがほとんどだが、手術が必要となることもある。本症例は、腹部CT検査MPR(multiplanar reformation)冠状断像が診断と病態把握に有用であり、その後の上部消化管内視鏡・X線検査を的確に行うことができた。病態を把握したことで保存的治療の限界と考え外科手術を考慮した。比較的低侵襲である腹腔鏡下手術を選択することにより、根本的な治療に結びつきQOLの著明な改善が得られた症例であったと考え報告する。