日本消化器内視鏡学会甲信越支部

71.保存的治療により軽快し得た前下膵十二指腸動脈瘤破裂による腹腔内出血の 1例

長岡赤十字病院 消化器内科
三浦智史、藤田智之、山田聡志、坪井康紀、三浦 努、柳 雅彦、高橋 達
長岡赤十字病院 放射線科
高野 徹、西原真美子
長岡赤十字病院 呼吸器外科
小池輝元

 膵十二指腸動脈瘤の破裂は比較的稀な疾患であるが、短期間に症状が進行し重症化しやすく、時に致 命的であることから、速やかな診断と早期治療が重要である。今回我々はアルコール性急性膵炎の既 往を有する常習飲酒家に生じた膵十二指腸動脈瘤破裂による腹腔内出血例を経験し、保存的に治癒せ しめたので報告する。 症例は68歳男性。1977年にアルコール性急性膵炎、2004年に盲腸癌にて回盲部切除の既往あり。 飲酒歴は日本酒2合/日。突然の心窩部痛とショックにて発症した。他院にて重症急性膵炎と診断され、 高次治療目的に当院に搬送となった。CTで腹腔内に大きな血腫があり、その内部に動脈瘤と造影剤の 漏出を認め内臓動脈瘤の破裂と診断した。翌日施行した腹部血管造影では前下膵十二指腸動脈に 22mm大の動脈瘤があり、造影剤の漏出を認めた。マイクロコイルにて動脈瘤の遠位側と近位側とを 塞栓したが、翌日のCTでは血腫は増大していた。再度血管造影を行い前上膵十二指腸動脈の分枝に動 脈塞栓術を追加した。背側膵動脈からも分枝を認めたが降圧療法で経過観察する方針とした。その後、 一過性心房細動により血行動態が悪化し、一時人工呼吸器管理を必要としたが2日間で離脱した。さ らに血腫による十二指腸第3部の圧排・狭窄とうっ滞を認め経皮経肝胆嚢ドレナージも考慮したが、 経時的に血腫は吸収されて縮小傾向を示した。当初経管栄養にて管理したが、血腫の縮小と共に十二 指腸狭窄も軽減し、経口摂取可能となり退院した。
 膵十二指腸動脈瘤は多くの場合無症状であるが破裂により出血性ショックに至る。CTにて膵周囲に 造影剤の漏出を伴う血腫が存在することにより診断されるが、急性膵炎による膵仮性嚢胞との鑑別が 時に問題となる。動脈瘤の破裂を疑った場合は速やかに腹部血管造影を施行し、動脈塞栓術を実施す ることが有用である。また、腹腔内血腫による十二指腸の圧排・狭窄に対しては手術が必要となる場 合がある。今後は患者のQOLを重視して、より早期に診断と治療を行い、社会復帰を目指すべきと考 えられた。