日本消化器内視鏡学会甲信越支部

70.経カテーテル的動脈塞栓術が奏功したhemosuccus pancreaticusの1例

新潟市民病院 消化器科
河久順志、和栗暢生、杉村一仁、濱 勇、横尾 健、相場恒男、米山 靖、古川浩一、五十嵐健太郎、月岡 恵
新潟市民病院 外科
横山直行、大谷哲也、斎藤英樹

 症例は、40代の男性。以前より原因不明の慢性膵炎を指摘されており、入院5年前と2ヶ月前に急性 増悪で入院していた。今回、腹痛を主訴に受診、CTで膵尾部腫大と内部不均一な造影濃度を認め、膵 酵素上昇がみられ、慢性膵炎の急性増悪の診断で入院した。同日、突然吐血したため、上部消化管内 視鏡を施行したところ、十二指腸乳頭部からの出血を認めた。また、血液検査では肝胆道系酵素上昇 を認めた。そのため、CTで膵尾部に認めた高吸収域は出血であり、その凝血塊が膵管、胆管を閉塞し、 膵炎、胆管炎をきたしていると診断し、出血源の同定と治療目的に腹部血管造影を施行した。その結 果、仮性動脈瘤等はっきりした出血源は同定できず、膵嚢胞及び脾動脈領域に膵実質内への出血を示 唆する造影剤の血管外漏出像を認めるのみであった。外科的手術適応につき外科医と相談の上、まず、 IVRによる止血を試みた。金属コイルによる脾動脈及び背側膵動脈塞栓術を施行した。塞栓術後、腹 腔動脈造影で、左胃動脈を介した膵尾部への側副路を認めたが、造影剤の漏出量は少なくなり、治療 を終了した。その後、腹痛は劇的に改善し、第3病日、肝胆道系酵素も改善し始めたが、少量の下血 が続き、CTでは依然膵実質内への造影剤の血管外漏出像を認め、貧血は緩徐に進行していた。しかし、 第16病日には、下血も認めなくなり、貧血の進行も止まった。その後、順調に経過し、症状、検査 所見ともに改善したため第36病日退院した。本症例のような膵管内を通じて十二指腸乳頭部出血をき たすhemosuccus pancreaticusは稀な疾患である。また、仮性動脈瘤を伴わない本症はさらに稀と されるが、非動脈瘤性の出血に対しても、経カテーテル的治療による止血術により出血量の減少から か疼痛の改善が劇的であった。経過は良好であり、膵温存の可能性が示唆された。