日本消化器内視鏡学会甲信越支部

67.術後16年目に急性膵炎をきたした腎細胞癌膵転移の1例

山梨大学医学部 第1内科
平山和義、山口達也、末木良太、大塚博之、吉田貴史、横田雄大、門倉 信、三浦美香、高野伸一、植竹智義、大高雅彦、佐藤 公、榎本信幸
山梨大学医学部 第1外科
平井 優、岡本廣挙、板倉 淳、藤井秀樹

 症例は55歳男性。主訴は心窩部痛。既往歴として40歳時に左腎細胞癌T2N0M0(根治的左腎摘出 術)、腎細胞癌異時性多発肺転移(50歳時に左肺下葉切除術、51歳時に右肺S8部分切除術、55歳時 に左肺上葉S4定位照射60Gy)がある。2007年5月6日、突然の心窩部痛で当院救急外来受診。CT・ 血液検査より中等症の急性膵炎の診断で緊急入院となった。急性膵炎の原因検索として行った造影 MRIにて膵に造影効果を伴った複数の腫瘤を認めた。また、ERCP時に十二指腸水平脚に3cm大の易 出血性の腫瘤を認め、生検にて16年前と同様のclear cell typeの腎細胞癌膵転移と診断された。化学 療法または手術による切除を検討し、膵炎再発の可能性や十二指腸からの出血が続いていたことより 手術による切除を選択した。膵炎軽快後の7月10日、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行し、膵の 3腫瘍のうち2病変を切除した。切除不能であった1病変に対しては今後放射線治療を行う予定である。 腎細胞癌の膵への転移は2.8%であるとされ稀であるが、腎摘出術から膵転移発現までの期間が10年 を超える例も少なくなく、長期間の経過観察が必要と考えられる。また、腎細胞癌の膵転移は無症状 で見つかることが多く、本症例のように急性膵炎で発症した腎細胞癌膵転移の報告は、医学中央雑誌 で検索した範囲では本症例を含めて8例と極めて稀であった。文献的考察を加え報告する。