日本消化器内視鏡学会甲信越支部

64.緩徐な進行経過をとり診断が困難であった胆管癌の1例

信州大学医学部付属病院 消化器内科
児玉 亮、張 淑美、尾崎弥生、高山真理、浜野英明、新倉則和、赤松泰次、田中榮司
長野市民病院 消化器科
越知泰英
信州大学医学部付属 病院 中央検査部
福島万奈

 症例は73歳、女性.胆嚢結石にて近医通院中の2002年6月に肝胆道系酵素の上昇と腹部超音波検査 で右肝内胆管の拡張を初めて指摘された.各種検査にて肝門部に限局性の胆管狭窄を認めたが腫瘤を 認めず、悪性所見を得られなかったため経過観察されていた.2003年2月閉塞性黄疸を来たし、 PTCD施行後当科紹介となった.血液検査では肝胆道系酵素の上昇を認めたがCEA、CA19-9は正常 範囲内であった.画像所見では肝門部から上部胆管周囲に境界不明瞭でCTではlow density、MRIで はT1強調像でlow intensity、T2強調像でhigh intensityで造影効果を有する腫瘤性病変の出現と門 脈閉塞を認め、肝門部胆管癌が疑われた.血管造影では右肝動脈およびA4にencasementを認めた. ERCPでは右肝管優位に肝内胆管から膵上縁にわたって胆管狭小化を認めたが、胆管生検では悪性所 見を得られなかった.胆道鏡下胆管生検でも悪性との診断ができず経過観察となった.2004年1月胆 管ステントを留置しその後metallic stentへ交換したが、胆管炎を繰り返すためstent in stentで留置 したtube stentを定期的に交換していた.交換時のERCでは胆管の狭窄範囲に変化を認めず、経過中 のCT・MRIでも病変のサイズに変化を認めなかった.2005年10月胆管炎から肝不全・DICを発症し 永眠され、病理解剖の結果は下部胆管から肝内胆管までびまん性に進展した高分化型腺癌であった. 細胞異型は乏しいものの構造異型は強く、既存の構造を残しながら右横隔膜、十二指腸、膵、大網、 横行結腸に直接浸潤し一塊となっていた.剖検にて広範な浸潤を認めたにもかかわらずスキルス様浸 潤により画像上病変の進行をとらえづらく、最後まで胆管癌と診断できなかった.胆管狭窄を来す疾 患の鑑別はその診断に苦慮することが決して少なくなく、生検で悪性所見が得られず進行が緩徐な胆 管狭窄であっても確定診断がつかない症例においては悪性疾患を念頭に置く必要があると考えられた.