日本消化器内視鏡学会甲信越支部

60.粘液産生胆管癌の1例

諏訪赤十字病院 消化器科
井田耕一、進士明宏、武川建二、太田裕志、望月太郎、沖山 洋、山村伸吉、小口寿夫
諏訪赤十字病院 外科
梶川昌二
諏訪赤十字病院 病理部
中村智次

 71歳の女性。主訴は背部痛、腹痛、黄疸。平成19年5月12日に背部痛、下腹部痛を自覚し、翌13日 に褐色尿を認めた。14日に近医を受診、血液検査で肝胆道系酵素異常を指摘され、当院紹介となった。 紹介時総ビリルビン値は4.05 mg/dlであった。腹部超音波検査では膵頭部に境界不明瞭な4cm大の 不整な低エコー腫瘤があり、左葉の肝内胆管拡張を認めたが主膵管の拡張はなかった。腹部CT検査で は左葉肝内胆管の拡張と、左葉全体にわたり不均一で造影効果に乏しい腫瘍像が見られ、総肝動脈両 脇にリンパ節転移を疑わせる腫瘤像を認めた。ERCでは総胆管拡張所見を認め、左肝内胆管は造影不 良であり、総胆管内に粘液を認めた。なお、膵管にはIPMTは認められなかった。血管造影では門脈 が肝門部にて圧排されていたが、明らかな動脈encasementは認めなかった。胆汁吸引細胞診では class3bであった。粘液産生肝内胆管癌と診断し、6月4日に肝拡大左葉切除および膵頭十二指腸切除 術を施行した。病理所見は、肝左葉の大半を粘液産生性の多結節腫瘍が占めており、肝実質内増殖を 示す乳頭腺癌のほか左胆管内進展を示す管状腺癌を認めた。CTでみられた膵頭部付近の粘液性嚢胞は リンパ節転移に伴う腫瘍の粘液産生によるものと判明した。リンパ節への特異な転移像をきたした貴 重な症例と思われ、文献的考察を含め報告する。