日本消化器内視鏡学会甲信越支部

57.肝細胞癌、結腸癌に対し同時切除を行い得た高齢者に発生した三重複癌(肝細胞 癌、結腸癌、前立腺癌)の1例

山梨大学医学部 第1外科
渡邉光章、松田政徳、浅川真巳、藤井秀樹
山梨大学医学部 第1内科
北村敬利、井上泰輔、坂本 穣、岡田俊一、榎本信幸
飯富病院
進藤邦明、朝比奈利明、長田忠孝

(症例)85歳、男性。(主訴)なし。(既往歴)69歳時、胆嚢結石に対して胆嚢摘出術。2003年前 立腺癌にて除睾術後。腎結石の加療時にHCV抗体陽性を指摘。(現病歴)C型肝炎の経過観察中、 CTにて肝S8に腫瘤像を認め、肝細胞癌(HCC)の診断で2006年6月当院紹介。2006年8月TACE 施行、総胆管結石に対してEST施行。2007年3月のCTにて肝S4/8に15mm×12mmの新たなHCC と考えられる腫瘤性病変と肝S7辺縁には27×23mmの単純CTで内部に高吸収を伴う低濃度域を認め た。S7の病変は造影効果は見られず、出血を伴った壊死巣と思われた。2007年5月の腹部エコーで はS4/8腫瘤部はモザイクパターンを呈し、S7の病変は低エコー腫瘤として描出された。CTではS7の 病変は辺縁の動脈相での淡い染まりを認めるが、後期相でははっきりした染まり抜けを認めなかった。 MRIにて、肝S4/8の病変はT2強調像にて高信号、T1強調像にて低信号、SPIOの取り込みを認めな かった。肝S7の病変はT1強調像にて中心が等信号で辺縁が低信号、SPIOの取り込みを認めず、DWI にて高信号であった。肝S8の病変は低信号を示しTACE後の変化と思われた。CTAPにてS4/8の腫瘤 は20mmの造影欠損となり、またS7の病変に一致して造影欠損を認めた。CTAでは、肝S4/8の腫瘤 にわずかな染まりを認めたが、S7の病変は辺縁に淡い染まりを認め、内部には有意な染まりは確認で きなかった。また、下部消化管内視鏡にて、上行結腸に径20mm発赤調で広基性隆起性病変が認めら れ、生検にて中分化腺癌と診断された。深達度はsmと推定された。HCCおよび上行結腸癌の診断で 2007年6月、肝S4/8部分切除、上行結腸部分切除術を施行した。肝S4/8の腫瘤は低分化型HCC、 S8 の背側の腫瘤は術中生検を行い(core needle biopsy)膿瘍と診断された。結腸腫瘍は中分化型 腺癌深達度smであった。(結語)肝細胞癌を含む3重複癌症例を報告した。本症例は高齢であったが、 HCCと結腸癌の切除治療が可能であった。