日本消化器内視鏡学会甲信越支部

56.経過観察中自然消退を来たした多発性びまん性肝腫瘤の1例

長野赤十字病院 消化器科
浜内祝嗣、伊藤哲也、今井隆二郎、三枝久能、原 悦雄、松田至晃、和田秀一、清澤研道
長野赤十字病院 総合診療部
金児泰明

 今回、我々は肝内の多発性びまん性腫瘤精査目的に紹介され、比較的短期間に腫瘤が自然消退した症 例を経験したので報告する。患者は68歳 女性。平成18年12月心窩部痛があり近医を受診。腹部US およびCTで肝内に多発性びまん性の腫瘤を認め、転移性肝腫瘍を疑われ同年12月20日当科に紹介と なった。既往歴では約10年前より緑内障の治療歴があり2年前ブドウ膜炎を合併し他院の呼吸器科に 紹介されサルコイドーシスと診断されている。入院時現症では表在リンパ節の腫大はなく、腹部では 肝、脾いずれも触知しなかった。血液検査ではAST 64 ALT31 LDH257 ALP543 γ.GTP 161 T.Bil0.5と肝機能障害があった。腹部超音波検査では肝内に多数の低エコー結節があり大きい ものでは中心部に高エコーを認めた。前医でのCTでは最大径約5cm大の大小結節が肝にびまん性に 認められていたが、1月10日のCTでは最大径3.5cm程度までに縮小していた。上部および下部消化 管内視鏡検査、婦人科領域、乳腺には特記すべき所見がなく、PETでは肺門、縦隔、肝、腰部軟部組 織に多発集積を認めた。以上よりサルコイドーシス、炎症性偽腫瘍などを疑い第19病日経皮的肝生検 を行ったが、施行時には腫瘤は縮小し超音波でも結節を十分に確認することが困難な状態であった。 組織では小葉の基本構造が保たれており肉芽腫は認めなかった。4月のCTではわずかな痕跡を残して 腫瘤は消失していた。本例は臨床経過よりサルコイドーシスによる肝結節病変である可能性が高いと 考えられたが、結節がきわめて大きく急速に消退した点が興味深く報告する。