日本消化器内視鏡学会甲信越支部

55.27年間にわたり経過を追えたNAFLDの1例

信州大学附属病院 消化器内科
長屋匡信、田中直樹、城下 智、小松通治、新井 薫、梅村武司、一條哲也、松本晶博、吉澤 要、田中榮司

 症例は69歳男性。52歳時に肝機能異常を指摘され来院。飲酒歴・輸血歴なく、BMI 23.6kg/m2、 ALT 50 U/l、血小板 31万であり、肝生検にて脂肪肝と診断された。肝細胞の膨化変性や線維化は見 られなかった。食事・運動療法を指示されたが、体重の減量には至らなかった。59歳時の健康診断で 再度肝機能異常を指摘された。BMI 28.0kg/m2、ALT 91 U/l、血小板 19.4万、HBc抗体を含め肝 炎ウイルスマーカーは全て陰性、自己抗体も陰性であった。イコサペント酸エチルの内服と食事・運 動療法を継続したが、トランスアミナーゼの改善は認めず内服は中止されていた。63歳時より UDCA内服開始したが、若干のトランスアミナーゼ改善を認めるのみであった。血小板の減少傾向が 見られたため、64歳時に肝生検を施行した。BMI 28.7kg/m2、ALT 138 U/l、血小板 10.4万、肝 組織所見はLiver cirrhosis with fatty depositionであった。その後ベザフィブラートの内服を開始 したが、トランスアミナーゼは改善しなかった。67歳時に第3回目の肝生検を施行。門脈域の著明な 線維化、軽度の脂肪沈着、肝細胞の膨化変性やマロリー小体を顕著に認め、非アルコール性脂肪肝炎 による肝硬変と診断された。69歳時には肝S8に20mm大の肝細胞癌が出現し、同部に対しラジオ波 焼灼術を施行した。本例は27年間もの長期間に亘り、臨床像や血液検査・肝組織所見の経時変化を追 うことができたNAFLDの一例である。肝生検にて脂肪肝と診断された後、20年後に肝硬変に至り、 27年後には肝細胞癌を発症した。我が国におけるNAFLDの長期経過は未だ明らかでないが、本例は NAFLDの臨床経過を考える上で貴重な症例であると思われた。