日本消化器内視鏡学会甲信越支部

54.肝細胞癌小腸転移の1例

佐久総合病院 内科
古武昌幸、比佐岳史、高松正人
佐久総合病院 外科
結城 敬、大久保浩毅

【症例】81歳男性。【主訴】黒色便、意識消失。【現病歴】16年前HCV抗体陽性を指摘された。12 年前肝S8の径6cmの肝細胞癌指摘され、S8亜区域切除術を受けた。4年前肝S2に径2cmの肝細胞癌 が再発し、腫瘍核出術を受けた。以後近医にて経過観察されていたが、3ヶ月前頃から黒色便の症状 があり、貧血が進行した。近医にて上部、下部消化管内視鏡検査施行されたが出血源を認めず、しか し黒色便は持続していた。貧血の進行による意識消失発作のため、当院に緊急入院した。【経過】入 院後輸血にて循環の安定を図り、小腸内視鏡検査を行った。しかし癒着のため全小腸の検索はできず、 観察範囲の小腸にはあきらかな出血源を認めなかった。出血止まり全身状態やや安定したため一旦退 院したが、再び下血、貧血が進行したため再入院した。腹部CTにて小腸重積像認め、血管造影にて上 腸間膜動脈を供血路とする腫瘍濃染像を認めた。肝細胞癌肝内再発、脾転移も確認された。肝細胞癌 小腸転移と診断し、手術を施行した。開腹下に小腸を検索すると、Treitz靱帯から約40cmの空腸に 重積を認め、この先進部に有茎性の腫瘤を認めた。重積を解除し小腸部分切除施行、さらに脾臓を摘 出した。切除標本の病理では、腫瘤は粘膜面に突出し粘膜下層まで膨張性に浸潤、薄い間質を有する 索状構造、充実性の構造を呈していた。肝細胞癌の転移として矛盾しない像であった。手術後全身状 態安定したため退院した。この2ヶ月後に肝内再発に対する肝動脈塞栓術を施行した。しかし腫瘍の 進行は急速で、小腸切除術から4ヶ月の後に死去された。【考察】肝細胞癌の他臓器転移様式として は、血行性、リンパ行性、直接浸潤、腹膜播種などがある。本例では腫瘍は粘膜面に突出し漿膜面に は露出していなかったため、腹膜播種転移は否定的である。血行性の転移と考えられるが、門脈を介 した転移であるか、体循環を経由したものであるかは不明である。【結語】肝細胞癌の小腸転移はま れであり、国内外の報告例も少数に留まる。今回我々は、消化管出血にて発症し、血管造影にて診断 した肝細胞癌小腸転移の1例を経験したので、若干の文献的考察も含め報告する。