日本消化器内視鏡学会甲信越支部

51.極めて稀な乳癌十二指腸乳頭部転移により閉塞性黄疸をきたした1例

市立甲府病院 消化器内科
小林祥司、俵 章夫、進藤浩子、青木いづみ、若宮 稔、嶋ア亮一、赤羽賢浩
市立甲府病院 外科
坂井威彦

 症例は54歳女性。7年前に両側乳癌異時性発症に対して手術+化学療法施行。持続する心窩部痛を主 訴に、当科受診。上部消化管内視鏡検査にて胃に多発する白色瘢痕性病変を認め、組織生検にて adenocarcinomaと診断。免疫染色法Estrogen receptor(ER)陽性で乳癌多発胃転移と診断した。こ れより再発乳癌に対する化学・内分泌療法を検討していたところ、黄疸の出現を認め入院となった。 眼球および皮膚黄染を認め、腹部にて腫大した肝を右季肋部に3横指触知した。T.Bili 8.1mg/dl D.Bili 5.7mg/dl ALP 532IU/l γ-GT 237IU/l AST 53IU/l ALT 79IU/l LDH 239IU/l CRP 0.3mg/dlと肝胆道系酵素の上昇を、また腹部造影CTにて下部胆管狭小化、MRCPにて下部総胆管に 嘴状途絶所見が認められ、下部総胆管癌あるいは乳癌の同部位転移による閉塞性黄疸と診断。ERCP を施行した際、十二指腸粘膜および傍乳頭部に胃内病変に酷似した多発の白色瘢痕を認めた。造影に より下部総胆管は約12mm、主膵管も約14mmにわたり途絶所見がみられたため、胆管内にステント を挿入し減黄を図った。入院時、特発性血小板減少症の合併がみられ、出血素因を考慮し、十二指腸 病変の生検を施行できていなかったが、ステロイド治療により血小板数の改善がみられたため、減黄 経過後、内分泌療法の効果判定目的の上部消化管内視鏡検査時に十二指腸病変から生検を行った。病 理組織学的にはadenocarcinomaで、内視鏡の肉眼所見の類似性から胃病変と同一のものと判断した。 その後化学療法導入を検討していたが、閉塞性化膿性胆管炎からDIC合併をきたし、入院後約9週間 で死亡した。乳癌の胃転移の報告は散見されるが、十二指腸転移は非常に稀なものであり、乳頭部転 移の報告は皆無であった。本例は浸潤性小葉型乳癌の消化管再発例で、胃、十二指腸ともに瘢痕性病 変の形態をとり、内視鏡診断においても非常に興味深いものであったため若干の文献学的考察を加え 報告する。