内視鏡所見と病理組織診断が合致しない2症例において、検体の取り違えを組織内血液型物質の同定 により証明し得た事例を経験したので報告する。症例@は70歳女性血液型AB型。腹部CTで右上腹部 腫瘤および傍大動脈リンパ節腫大を指摘され精査のため平成18年10月某日に大腸内視鏡検査を行 なった。上行結腸にSMT様の隆起性病変を認め、頂部は発赤調でびらんを形成しており、内視鏡的に は悪性リンパ腫を疑い4ヵ所生検を行なった。病理組織診断はtubulo-villous adenomaであった。 症例Aは75歳男血液型B型。10年来の原発性マクログロブリン血症の経過中に右精巣腫瘍を合併し、 手術にて非ホジキンリンパ腫診断され当院血液内科を紹介された。PETで回盲部に集積を認め、精査 のため症例@と同日に大腸内視鏡検査を行なった。盲腸後壁を中心に1/2周のW型pitを有する多結節 性の腫瘍を認め、腺腫内癌と診断し同部から4ヶ所生検を行なった。病理組織診断では上皮成分に異 型を認めなかった。症例@およびAの病理組織診断はいずれも内視鏡診断と解離しており、同日、同 病棟の患者で同数の生検を施行した@A間での検体取り違えが示唆された。症例@はAB型、症例Aは B型であることから、生検標本の血液型を判定するため抗血液型モノクロナール抗体を用いて免疫組 織染色を行なった。その結果、腺腫と診断された生検標本はB型、上皮の異型なしと診断された生検 標本はAB型であり、症例@A間で検体の取り違えがあったことを証明し得た。
当院では生検標本は濾紙に乗せて取り扱っており、濾紙自体には検体を識別する情報がない。今回の 事例の原因について検討した結果、病理検査部で検体受付後に濾紙に載せた生検検体を取り出して次 のプロセスに入るところで取り違えた可能性が高いと考えられた。