日本消化器内視鏡学会甲信越支部

38.静脈硬化性腸炎の1例

下越病院 消化器科
原田 学、河内邦裕、渡辺 敏、畠山 眞、山川良一
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野
味岡洋一

【はじめに】静脈硬化性腸炎は小山、岩下らにより報告された疾患であり、稀な疾患である。今回わ れわれは静脈硬化性腸炎と思われる1例を経験したので報告する。
【症例】80歳代の女性で、陳旧性肺結核のため当院を定期受診していた。2004年12月上旬、便潜血 陽性のために施行された注腸造影検査にて、S状結腸に約5mmのポリープが認められ、また上行結 腸から横行結腸に連続して拡張不良が認められたが、自覚症状はなくその後経過観察されていた。 2005年8月上旬より下痢症状が認められるようになり、8月下旬に施行された注腸造影検査にて、前 回と同様に上行結腸から横行結腸に連続して拡張不良と浮腫が認められた。内服薬にて症状軽快した ため下部消化管内視鏡検査は希望されず経過をみていた。2006年10月下旬に施行された注腸造影検 査にて、前回までと同様に上行結腸から横行結腸に連続して拡張不良が認められ、一部不整なdefect が認められた。下部消化管内視鏡検査にて、ポリープが数個認められ、これとは別に盲腸から横行結 腸にびまん性に拡張不良とびらん、暗赤色の色調変化が認められた。2007年4月上旬に再度施行され た下部消化管内視鏡検査にて、前回と同様に上行結腸から横行結腸に連続して暗赤色の色調変化が認 められた。生検にて、血管周囲性に著名な膠原線維増生が認められ、コンゴ-レッド染色にてアミロイ ド沈着は認められなかった。以上より静脈硬化性腸炎と診断された。現在、自覚症状はみられず、保 存的治療にて経過観察中である。
【考案】静脈硬化性腸炎は病変部腸管に関与する静脈硬化症による慢性血液循環障害のために生じる 炎症性疾患である。内視鏡検査でみられる独特の暗紫色から青白色の粘膜色調が認められ、病理学的 特徴としては粘膜下層の線維化、血管周囲の沈着物、血管壁の石灰化などが高率に認められる。また、 腹部単純X線検査や腹部CTで右側結腸壁及びその周辺の点状〜線状石灰化像が特徴的である。治療と しては、過去の報告ではイレウス症状のため外科的治療が施行された例が多くみられるが、保存的治 療にて再発が認められない報告もあり、腹膜炎症状などがみられなければまず保存的治療を行い、コ ントロール不良となった際に外科的治療が考慮されるべきと考えられている。本症例では、保存的治 療にて経過良好であり、今後慎重なフォローアップを行っていく。