症例は51歳男性。気管支喘息にて近医通院中であった。5年ほど前、口腔内アフタが口唇粘膜に多発 再発したが、現在はみられていない。平成19年5月下腹部痛、両下肢冷感が出現し、CTにて腹部大 動脈瘤と診断された。その後両下肢がしびれて歩行不能となり当院に緊急入院となった。精査の結果、 大動脈A型解離と診断され、腋窩−両大腿動脈バイパス術、上行弓部大動脈置換術が施行された。術 後、食思不振、嘔吐が続き、更に腹痛、発熱も出現、CTにてイレウスと診断、術後第10病日緊急開 腹術施行。上腸間膜動脈領域に色調変化を認め腸管壊死が疑われ、小腸切除、右半結腸切除術を行っ た。残存小腸は120cmとなった。同時に腹部大動脈−上腸間膜動脈−脾動脈バイパス術を行った。 術後も発熱、下痢が続くため腸管切除術後25日目に下部消化管内視鏡検査施行。NSAIDsは使用し ていなかった。残存大腸に所見はみられなかった。吻合部口側に輪状潰瘍を認め、その口側空腸には 大きさ10mm前後の類円型〜不整形潰瘍が多発し、縦走配列を示す部分もみられた。潰瘍辺縁は鋭で、 周囲粘膜に発赤、浮腫は目立たなかった。潰瘍底内に再生性と思われる粘膜島を伴うものもみられた。 更にその口側には病変はみられなかった。切除された小腸、右半結腸の標本を見直したが回盲弁もふ くめて潰瘍、びらん形成は認めなかった。その後の上部消化管内視鏡検査ではTreitz靱帯を越えて、 門歯列から150cmまで挿入したが異常所見は認めなかった。入院後眼科受診し、ぶどう膜炎と診断 された。結節性紅斑、毛嚢炎様皮疹、外陰部潰瘍は認めず、既往も確認できなかった。両手指 PIPjointに関節痛あり。HLA-B51陰性。以上より不全型Behcet病の基準を満たす症例であった。成 分栄養療法を導入し、短腸症候群に準じた治療を開始している。切除腸管に潰瘍性病変を認めなかっ たことから、残存空腸の潰瘍は上腸間膜動脈灌流不全後に生じたものと推定されたが、潰瘍の形態や 周辺粘膜性状から虚血の関与は考えにくく、Behcet病の腸管病変の可能性が考えられた。