日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.H. pylori の除菌後にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫を生じた胃MALTリンパ腫の1例

新潟市民病院 消化器科
五十嵐健太郎、濱 勇、河久順志、横尾 健、相場恒男、米山 靖、和栗暢生、古川浩一、杉村一仁、月岡 恵
新潟市民病院 外科
片柳憲雄
新潟市民病院 血液科
百都亜矢子、高井和江
新潟市民病院 病理科
橋立英樹、渋谷宏行

 症例は68歳男性。既往歴として、30年前に胆嚢摘出術。市民検診のため上部消化管内視鏡検査を受 けたところ、胃体中部大弯に表面粗大顆粒状でやや褪色調の扁平隆起が認められた。生検にてMALT リンパ腫の診断であった。H. pylori は、免疫組織染色、尿素呼気試験ともに陽性であった。全身CT、 ガリウムシンチにて胃以外にリンパ腫の所見は指摘できずstage 1と診断した。可溶性IL-2レセプ ターは正常範囲であった。除菌治療を行い経過観察することになった。2か月後に内視鏡検査を施行 したところ前回の病変部に小さい潰瘍が生じこのすぐ後壁側に陥凹が認められた。陥凹よりの生検に てMALTリンパ腫細胞が残存していた。H. pylori は陰性化したのでもう少し経過観察することにし た。4か月後の内視鏡観察時には、前回小潰瘍であった部位は瘢痕化したがこのすぐ後壁側の部位は 小さい潰瘍性病変に変化した。しかしいずれの部位からもMALTリンパ腫細胞は指摘できなかった。 6か月後も同様の所見であった。9か月後の観察にて瘢痕は同様であったが近接する潰瘍は増大し周囲 粘膜が隆起しており明らかに増悪した。ところが生検にては高悪性度のリンパ腫やMALTリンパ腫の 所見が得られなかった。染色体転座の検索は行われなかった。CTなどを再検したがstage 1に留まっ ていた。手術療法か放射線療法か検討したが粘膜下に胃癌が合併している可能性も否定できず、当院 外科にて胃全摘術が施行された。病理組織標本の診断はMalignant lymphoma, diffuse large B cell typeであった。深達度”SM2”でリンパ節転移は認められなかった。術後化学療法を追加し1年9 か月後の現在再発所見はない。手術直前の生検にてびまん性リンパ腫の所見が得られなかったのは潰 瘍底から十分な標本が採取されなかった可能性が考えられた。また結果的には治療法として化学療法 +放射線療法の選択もあった。