日本消化器内視鏡学会甲信越支部

15.早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後、遅発性穿孔を来たした1例

山梨大学 第1内科
横田雄大、大高雅彦、大塚博之、山口達也、末木良太、三浦美香、植竹智義、門倉 信、井上泰輔、高野伸一、廣瀬純穂、北村敬利、松井 啓、佐藤 公、榎本信幸
山梨大学 第1外科
河野浩二、藤井秀樹

 近年ESDは早期胃癌に対する縮小手術として普及している。ESDにおける主な偶発症は出血と穿孔で あり、その中でも遅発性穿孔は胃では頻度が0.1%以下と推定され、検索可能な範囲で本邦の報告例 は1997年以降で8例、そのほとんどがESD後翌日もしくは翌々日に発症している。今回ESD後8日目 に穿孔を来たしたまれな症例を経験したので報告する。症例は62歳、男性。主訴はない。2007年3 月14日スクリーニング目的の上部消化管内視鏡検査で胃体上部〜穹窿部大弯側に3cm大のUc病変を 指摘され、生検でGroupX, tubular adenocarcinoma (tub1-2)と診断され精査加療目的で3月28日 当院紹介受診となった。T1N0M0の早期胃癌の診断で5月31日ESDを施行した。術後翌日および7 日目の内視鏡では穿孔を認めなかった。術後4日目より流動食より開始し、順次食上げを行ない8日 の夕食後に多量吐血、出血性ショックを来たし緊急内視鏡を施行した。左側臥位では食物があり右側 臥位へ変換し切除後人工潰瘍を観察した。明らかな出血源は確認できず、ESD後潰瘍部中央に1cm 大の穿孔を認め、その場で内視鏡的にクリップにて穿孔部を縫縮した。上腹部にわずかな圧痛と反跳 痛を認めたが、汎発性腹膜炎には至っていないこと、腹部CTで胃内容物の腹腔内流出が軽微なことか ら絶飲食・抗生剤投与・胃管挿入による保存的治療を行なった。胃管から新たな出血はなく、炎症所見・ CT所見の改善を認めた。穿孔後11日目の胃透視で造影剤の腹腔内流出がないことを確認し飲水開始 した。自他覚症状の出現がないため13日目に内視鏡を行ない潰瘍の縮小と穿孔部閉鎖を確認し流動食 より開始した。以後の経過は良好で、25日目に退院となった。病理結果はwell differentiated tubular adenocarcinoma(37x25mm、m、ly0、v0、LM(-)、VM(-))であった。遅発性穿孔は全層 の凝固壊死が原因と考えられ広範囲の潰瘍底が脱落するため多くは外科的処置が必要となる。本例の 穿孔部はESDの際に止血に難渋した部位であり過通電が主因と考えられた。